サナギ

向こうからすげえでかいものが歩いて来やがった

そのすげえでかいものが
どう見たって
図書館だ

ツタの生えた陰気くさい外壁
入り口はまあまあきれいだ
ずらっと並んだ棚には本がぎっしりつまって
受験生らしき奴らは蛍光灯の下で勉強
床には絵本を読む子供
椅子には眠りこける老人
紺色スーツの楚々とした職員がカウンターで判子を押している

それを背負っているのがまたやせっぽっちな男で
驚いて口もきけない俺に話しかけてきた

やあどうです本でも

どうですと言われても
こっちはそんな暇も趣味もねえ

一体どうしてこれを背負う羽目になっちまったんだと聞くと

いえね、始めは借りては返し借りては返ししていたんですが
ちょっと背負ってみようかと言う気になり
背負ったらほらっこのとおり!
大変しっくりと背中に収まってしまいました

俺は何も言えずにじろじろ見ていると

分かってますよ
本なんて何の意味があるって言うんでしょう
ですが
心臓が脈打つことと
私が本のページを繰る事は
同じ事です
心臓に何故脈打つのか
脈打って何の意味があるのか
問いますか
問うたところで
何の意味があるって言うんでしょう

いや別に何を問う気もねえけど
カウンターの女の子はいい感じだな

ああ・・・・・
そうですよね・・・・・・・

そいつは深くため息をついて
とぼとぼ行っちまった

気がつくと手の中に
「墓標について」という題名の本があった

試しにちょっと読んだんだが
おっそろしくつまんねえ本だったから

火にくべちまった




自由詩Copyright サナギ 2007-02-01 01:05:14
notebook Home 戻る