劇 場   Ⅱ
塔野夏子

舞台の上に寝台
そこにひとつの意志が 表面に暈色をまとい
硬質な眠りを眠っている

舞台にはさまざまな役者が登場しまた去り
時に祭りのにぎやかさに溢れかえる
けれど意志は眠りつづけている
舞台はまたいくたびも暗転する
でもそのときも
意志の眠る寝台だけは
浮かぶように照らし出されている

舞台に登場するすべての役者が
そしてすべての観客が
感じているのだ
おそらく多くは無意識に
そこに眠る意志が意志として持続することが
とても大切なことなのだと

だが誰もその意志を
目ざめさせる方法を知らない
あるいは誰もみな疑っているのだ
その意志は眠っていることでしか
維持されないのではないかと
目ざめさせればそれは崩れ去るのではないかと

いずれにせよ
意志の硬質な眠りのまわりで
芝居はつづいてゆく
意志の眠る寝台は
時に揺籃のようにも
柩のようにも見える

時に眠る意志の表面の暈色を
しばらくじっと見つめている役者がいる
彼もしくは彼女は主役ではない
そしてやがて
黙って立ち去る


暈色:鉱物の表面や内部に見える虹のような色のこと





自由詩 劇 場   Ⅱ Copyright 塔野夏子 2007-01-27 16:46:36
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