月は、夜を照らすのも忘れて
atsuchan69

薄闇に見る、葦の原
風に穂を激しく揺らしては堪えきれず
茎の根ちかく 折れ曲がり、
ついに起きることもない

飛沫の散る 河原の
無常なる日暮れを
化粧の崩れた女と双んで歩く
水辺の冷たさも格別、
芯から失われてゆく笑み
忽ち、激しい恋の火照りも消え

身を焦がし、逃げた先の袋小路――
僕らふたりを見下ろす下町の窓辺。
彼らの沈黙と無関心が恰好の場所を宛がい
狂おしいほど短い束の間に
熱愛と呼ばれる 底深き淵を育んだ

風の唸り声に混じって 幽かに、
哀愁をおびたフレーズが空に谺(こだま)した
女は、パンプスを脱ぎ捨てると
もはや気もふれて さらに歌いつづける

それは拙い言葉たちの残響 )))
遠い真夜中、まだ貧しかった頃の君が
オリオン座のうかぶ夜空を仰ぎつゝ
僕にそっと口ずさんだ 銀の調べ

静かに浅瀬に浸かり
ふたり、足の運びも乱れて
ロシアン・セーブルを纏った君が、
無惨な姿で転がる

 風になぎ倒される葦の群れ

やがて訪れるあからさまな終りに
月は、夜を照らすのも忘れて







自由詩 月は、夜を照らすのも忘れて Copyright atsuchan69 2007-01-27 00:43:41
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