3.ルーレットを廻せ!!
朽木 裕
7並べの途中で彼が突然、呟いた。
「オレ浮気するかも」
手元のトランプ 出せるカードがない ない ない
「あーそう」
ぬけぬけと目の前でハートのクイーンを出す表情の変わらない男。
「やめて欲しい?」
「…って云ってもやめないくせに」
「おぉ、さすがはオレの彼女。よく分かってんねー」
スペードの3も10も、クローバーの5も9も、ダイヤのAも8も、
ハートの6もキングも私の手元にはない ない ない
くやしくて涙でてきた
「…ひとつ聞きたいんだけども」
「何々?」
「浮気の定義なんだっけ、君」
ハートのクイーンを見てからトランプに手を伸ばす彼
キング出す気だろう そういう男だ
道を全部断ち切っておいて それを上から見て楽しんでる
悪趣味だ
で、それに心底惚れちゃってる私も相当悪趣味だ
くそぅ 悔しい
「他の女との愛あるセックスかねぇ」
ぬけぬけと この野郎
次の瞬間 ちらばるトランプ
ぱちん 気持ちいいくらいにヒットした平手打ち
きっと涙でぐしゃぐしゃになってる 顔
「なー」
「……何」
「さっきの全部ウソって云ったらどーする?」
ちらばるトランプの上
にじり寄って噛み付く位の強引なキス
「オレ怒らせたら怖いの、1番よく知ってんのアンタでしょ」
ルーレットはずっと同じところでくるくる廻る
廻すのもサイをふるのも全部全部君なんでしょう?
口唇から鉄の味
君とのキスはいつだってそう
痛くて甘くて焼けるように熱い
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100のメランコリィ