春・夜・雨
do_pi_can

ビルの谷間に
あなたの影が忍び込み始めると,
夜は街を装い
ヘッドライトの灯りが
チラホラ
チラホラ
ワインの赤を
耳元で語るのだ
雨模様の春先の
闇に溶け出した起重機が
密かに企んだ
ベジエ曲線を描く壁面は
天に達する建物の墓碑銘を気取る
その先端にかき回された雨雲の
踊るタンゴの旋律
その足取り
せつない

乳母車を押す男の
毛の無い細い素足にも似た
恍惚のラブロマンス
サックスの官能を反射する
しとど濡れた路面に
跳ね,踊る情動
湿ったピンク色のマフラーは
巨大な風車に
受け止められ
ショーウインドウーに散りばめられ
スイッチの切られる
最後の時を
待つ
その間の
悪さに
歯噛みする

ガラスの楼閣に
張り付いた福笑い顔が
崩れ落ちる瞬間の
角砂糖の足掻きに似ていると
スプーンの凸面で逆立ちした
髭の男の傾けるシャンパングラスの
底に揺らめく煩悩が
ひとりごち
ひとり遊びゆえの
ひと時の
火と
緋に
紐つけ
引き絞る
桧の

の雨
傘もささず
過ぎ行く
屈託の穴
覗き見るしか
仕様の無い
ビルの谷間の想いを
過ごして
己を

己を
さて
どうしよう

湿ったガラスケースの中の
クリスタルの彩りを
醸す蛍光灯が
誘う
街の夜に
溶け出す想い
とどまらせ
とうに
閉ざした
裏木戸
悲し

誘う
あなたの
白き
かいな
致し方なし

春に酔い
寝る





未詩・独白 春・夜・雨 Copyright do_pi_can 2004-04-07 01:00:47
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