スプラウト
朽木 裕
りんご飴、ねぇ買って
と君は舌っ足らずに僕の袖をひいた
正月でもなければ夏祭りもない三月の夜空
りんご飴なんて何処で手に入るの
問うと君は平然として
じゃあ花火しよっか
後ろからではなく前から僕の手を引っ張ってどんどん歩く
冬に花火がしたいって そういえばいつも云ってた
僕の車には去年の夏に買った、
冬にするつもりの花火が沢山のせてある
うん、花火、しよっか
まばたきでシャッターをきれたなら
僕は君の写真に埋もれて死ねるだろう きっと
白いかんばせ 長めの栗色ストレート
大きくて色素の薄い目
この目がゆっくり閉じるとき
僕は君の傍に居るのかな
ゆっくりゆっくりと下りるシャッター
スローモーションのおやすみみたいに
じわじわ夜に感光する目前の花火
黒い悪魔に楯突くみたいな赤いひかり
冬に花火、したかったんだ
云いながら君は声にならない声で
「 」
って云った
君は火のついた花火を持ちながら
その手で目をこすって泣いた
抱き締めようと手を伸ばしたら
君は感光した赤を誕生日の蝋燭みたいに
ふっと消して夜に消えた
「 」
一文字だけ変えて君と同じことば
足音と一緒に川辺のコンクリィトに吸い込まれて消えた