スプラウト
朽木 裕

りんご飴、ねぇ買って

と君は舌っ足らずに僕の袖をひいた


正月でもなければ夏祭りもない三月の夜空

りんご飴なんて何処で手に入るの

問うと君は平然として



じゃあ花火しよっか



後ろからではなく前から僕の手を引っ張ってどんどん歩く



冬に花火がしたいって そういえばいつも云ってた


僕の車には去年の夏に買った、
冬にするつもりの花火が沢山のせてある



うん、花火、しよっか



まばたきでシャッターをきれたなら
僕は君の写真に埋もれて死ねるだろう きっと

白いかんばせ 長めの栗色ストレート
大きくて色素の薄い目

この目がゆっくり閉じるとき
僕は君の傍に居るのかな


ゆっくりゆっくりと下りるシャッター
スローモーションのおやすみみたいに


じわじわ夜に感光する目前の花火
黒い悪魔に楯突くみたいな赤いひかり



冬に花火、したかったんだ




云いながら君は声にならない声で


「      」


って云った



君は火のついた花火を持ちながら
その手で目をこすって泣いた


抱き締めようと手を伸ばしたら
君は感光した赤を誕生日の蝋燭みたいに
ふっと消して夜に消えた


「      」


一文字だけ変えて君と同じことば
足音と一緒に川辺のコンクリィトに吸い込まれて消えた


散文(批評随筆小説等) スプラウト Copyright 朽木 裕 2007-01-14 22:08:32
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