アザレア
フユキヱリカ

女子校育ちは気がつよくて
と、眉を顰(ひそめ)る父の
たしなめる手にエスコートされ
日曜はショッピングに行く

青白いガラス窓の
温室に咲く花でさえ
その身を愛らしく
あざとく子種を残すのだから
月とふたつの星を胸に抱いた
母が
太陽であったように
それは自立の為よ、と
得意げに笑った


教会へ続く並木道を
紺色のコートに
いろとりどりの少女たちが
柔らかな頬と
ひざ小僧を朱くしながら
ミニスカートの裾を
ひらひらさせて
擦れ違って行く
白い襟の純潔は
吐息のように

あなたとこの路を通った時も
三十まで独身だったらもらってやるから
と、指を絡ませ
やがて
少女は歩道側へ
庇われて歩くことを知った


花言葉は
あなたに愛されて幸せ
ねぇ
今度までには
彼を紹介してもいいかな


アパートの窓から
積もりそうな淡雪を眺めた
明かりは消したまま
りょうてのひらをひろげたくらいの
浴槽に浸って
たまにはわたしから
あなたの背中を抱きしめると
ああ、守られている感じがするねと
重心を傾ける

二年経ったら
もっと広い部屋に越そう
とあなたは言うけれど
このバスタブに
タプタプとお湯をはって
脚を伸ばしきれないくらいで
今はちょうどいい

立ち上る湯気の中
わたしたちは
ついばむような約束をして
実を結んだ




「二十二になるによせて」


自由詩 アザレア Copyright フユキヱリカ 2007-01-09 18:52:06
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