かまいたちを一匹。
吉田ぐんじょう

どうやら先日から
天井裏に
ねずみよりも大きくて
鳥よりも小さい何かの動物が住みついたらしい
夜になるとばたばたと走り回って
うるさいことこの上ない
ただ不思議なのは
わたしの真上で必ず一度は
ぴたりと止まる事である
天井の隙間からじっと
わたしを見ているのだろうか
負けずに見返してみる
木目がだんだん眼のように見えてくる



三日も経つとばたばたは治まった
代わりに静かな足音が
てち、てち、とゆっくり響いてくる
それでもやはりわたしの真上で
ぴたりと止まるのは相変わらずで
何の欲求を感じているのか知らないが
お前にしてやれることなど何もないよ
毎晩そう念じて
布団の底にもぐりこむ
布団は随分小さいので
完全にもぐりこむ前に
向こう側から足が出てしまう
つまさきは夜に飲み込まれてゆく
急に心細くなる
どんどん足がなくなって
しまいには
幽霊になってしまうんじゃないか
それでも一応もぐることはやめない



一週間を過ぎると
動物は滅多に歩き回らなくなった
わたしの真上に居を定めたのかもしれない
仰向けに寝転がって
へそなどを掻くのはもうやめにした
例え何であろうと
見られているのはいい気がしない
どうしてもへそを掻きたいときには
うつ伏せで掻くようにしている
指先は思いの外つめたくて
どんなにそっとおなかに触れても
毎回びっくりしてしまう



二週間後
朝起きたら手が切れていた
これで漸く合点がいった
天井裏にいるのはかまいたちであろう
随分ちいさい傷だったので
まだ赤ちゃんのかまいたちかも知れない
眠りに落ちる直前に
木目に向かって
かまいたち
かまいたち
と優しく呼ぶと
ばたばたばたっと駆けてゆく音がした



以来わたしは
何を飼っているのか聞かれたら
かまいたちを一匹飼っている
と言う事にしている
この頃は大分慣れてきて
ひゅうひゅうと風が吹く晩には
喜んでいるのかきしきしと
鳴き声らしきものを立てるようになった

いつかかまいたちがなついたら
肩にでも乗せて
その辺を散歩するのがわたしの夢だ


自由詩 かまいたちを一匹。 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-01-07 17:40:34
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