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ばーばに手を引かれ
ゆるい坂道をてくてくいけば

「コカ・コーラ!」
わたしは畑に捨てられていた瓶を指さして叫ぶ

ママ、という言葉は知っていたけれど
ママ、と呼ぶ対象がいなかった
日 ....
腕がある
脚がある
カラダがあって
心臓はこの辺だろうか
洗濯物を干しながら
幸福感に包まれる

よれてしまった襟だとか
落ちきれてない染みだとか
ゴムの伸びたパンツだとか
新品で ....
病院の待合いの長椅子で
おじいさんがあくび
おばあさんがあくび
その隣のおにいさんもあくび
くたびれた私もあくび
うっかりもらっちゃったけど
あくびの正体は知りません
からくりがあっても ....
撹拌されて
まじりあう
フラスコの中の
時間が
わらわらと踊っている

次第に
重さを帯びた幸せは
底で沈殿する

浮かびあがる
透明な
うわずみ
プロペラから
風が生まれる
その中心を
つかんで
風を止められるかどうか
幼いきょうだいが
度胸だめしをしている

扇風機の首振りボタンで
風を分けあって
涼と熱を共有していた
 ....
枝豆を茹でる
さやには産毛がひしめいて
そのあおい膨らみに
おまえが未成熟のまま
刈り取られてしまったことを
想う
夕立は夏の序曲

塩をふって
硝子の器に盛り
冷蔵庫に冷やしてお ....
パチンと弾けとんだ
洗濯バサミ
ひらいて、はさむ
どんなに風の強い日だって
あなたがいいというまで
ただもくもくと
しがみついてきた
のに

繰り返されてきた
しごく簡単な仕組みが ....
水中花は
水がある限り
生き続けます

におい
こえ
てざわり
ある種の予感
見えはしないのに
確かに在ったものたち
次は
何に生まれ変わりますか?

一秒に
『チョモラン ....
ここに
コンクリートの破片がある
砂と水を固めて
作られた人工の石たち

人が集う会館になり
公園の遊具になり
学校の名を刻む門となり
新しい道となり
駅となり
小さな島に架かる橋 ....
ひたひたと
ありったけの水を吸い上げ
あおく 
あかく
丸く
咲く

装飾花は結実しない
ただ
水をひたらせる

小雨
大雨
さみだれ
にわか雨
夕立ち
根拠のない憂鬱 ....
連れてってというものたちは
刺をもつ

過ぎ行く時間のすそに
そっと
刺をさす

──エクサンチウム ストルマリウム
野山で遊んだ私たちは
君をくっつき虫と呼んで投げ合った
いつか ....
ぷらすちっくの小さな筒型の編み機には
五つの突起がついていて
人造絹糸を星のかたちに結わえたら
それが
りりあんの始まり

食べ散らかした夏蜜柑の皮
白黴の生えた白パン
蟻の住処は大洪 ....
──わしが死んでも
  この時計は捨てんでくれよ

親父はよくそう言っていた
死んでから
それがたったひとつの
遺言らしきものだったと思い当たる

祖父がやっていた
はんこ屋の店先に ....
人は
はぎとった他者に
記し
記してきた

鳥は記さない
慈しみあう
つがいの声は
白い森に響き
溶けて消えていくだけ

{ルビ草子樺=そうしかんば}は
カバノキ科シラカバ属  ....
閉じられた瞼は
眼球にやさしくかけられたさらし布
或いは
フリンジのついた遮光性の高い暗幕

時折
なにかに呼応して
波打つように
揺れる

ベビーカーのハンドルに止まったちょうち ....
おそらくは
やわらかな春の香り
おそらくは
かぐわしい早乙女のような
おそらくは
この世に用意された
おびただしい
喜びと悲しみのあわいで
おそらくは
それは
幻の香り

さく ....
浴槽の栓を抜く
しばらくは何事も変わらない水面
さざ波のそぶりさえない
今 渦中では
見えない引力に導かれ
出口へと
まさに水が
わあわあ殺到しているというのに

ことの始まりは
 ....
ゆくすえは
どこまで見まもることが
できるのだろう

吃音のことで
それほど悩んでいたなんて
知らなかったけれど
親は子の悩みを
まるごと肩代わりすることはできないし
してあげたいけ ....
「ママ、なんでみどりなのに、あおっていうの?」
信号を指さして
そう問う
まだ乳くさい我が子を
天才だ! と思った遠い日

わたしは
なんと答えたのだろう

仮に
みどり、と名づけ ....
【緑の風】

一輪車に乗った子供が
緑の風をうけてゆく

不安定なのに
軽快に

不安定だからこそ
愉快に

たったひとつの輪さえ
あればいい


【蕗によせて】

 ....
次の冬のために
てぶくろを洗う
寒くなると
きまって血流障害を起こす
私のやわな指先を守るための
カバーたち

毛糸で編まれたもの
外国のお土産でもらった
ムートン製のグローブみたい ....
明け方
素になった
あしのうらが
のんびり呼吸をしていた

朝、起きて
人が再び活動を始めたときから
あしうらは忙しい
意にそまない誰かであっても
一緒に過ごさねばならない
破れか ....
声がする
崖っぷちに
かろうじて
爪を立て
呼んでいる
誰かを
よるじゅう
求めている
雨に打たれて
傘も持たない
家もない
母もない
優しい思い出も持たない
痩せた猫が
 ....
「かあさん、コンビ二で『レシートいりますか?』って言われたら
なんて答える?」
 と中学生の娘が聞く。
「ふつーに『いりません』というかなあ」
 と私は答えた。

「えっそうなん。私はどう ....
るる、と呼べば
りら、と響く

それは歌

スノードロップが
白い鈴を鳴らしている

水仙が
黄色い笛を吹いている

{引用=合唱団の申し込みは
春色のポストへ出してください
 ....
みつめる
みつめる
じっとみつめる
そうすると
何かが
語りかけてくる

種を手放したあとの
たんぽぽが
茎に残された
小さな瞳で
私をじっとみつめる

世界には
なんと
 ....
もう なんにちも
雨は降らないし 降りようがない
雨乞いの呪文も
もはや効き目は薄れ
わずかばかりの
水を流して
やり過ごしている

 {引用=さかな 苦しいだろう
さかな 底に怯え ....
日曜日の朝風呂は
どこか わくわくとして後ろめたい
隣のおばさんがそろそろパクチー(犬です)を
散歩させる時間
湯気でくもっている気配の浴室の窓をちらり見て
一体誰が入っているのかしらんと思 ....
女の子の
苗字と名前にある
わずかな空白に
小さな川が流れて
いる
せせらぎのような気安さであるから
そこをいったりきたりすることが
できる
時々流れてくる桃を
無邪気に拾って遊んで ....
わたしたちは
いつだって
傘のかなしみを知らないのです
雨は水のふりをしているけれど
あれは
悪魔なのです
今は悪魔であるけれど
もとは穢れなき天使だったのです

傘は特別製の防御服 ....
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