すべてのおすすめ
塩水を買って帰る
安かったから、と妻に渡すと
またこんなもの買ってきて
そう言いながらも大事そうに抱えて
海に帰っていく
今日のおすすめはこれです
テレビの人が言った
(午前 ....
肩幅で生きる
肩に幅があって良かった
夏は草の履歴と
雲の墓場
ただいま
おかえりなさい
言葉が影になる
初めてできた影だ
子供たちに見せてあげよう
昨日いた犬にも見 ....
カメラが無くなってから
鞄が手放せなくなった
窓を開けると
春の風とともに入ってくる
都市の景色
潮風のように笑うけれど
指紋はすべて失効してしまった
鞄の中を探れば手に触れ ....
お言葉ですが、と言った男
確かに言葉に違いない
うまく喋る
来年の言葉も昨年のように喋る
言葉は耳で聞くものではなく目で見るもの
肉体だからね、目で見る
山下君、山下君だったね
はい ....
ニュージーランド、アイルランド、ポーランド、フィンランド
すべてのランドが良い所ならいいなあ
世界中の船乗りがそう思っているころ、光雄も例外ではなかった
光雄は数えで十五歳
まだ ....
電柱を数えていると
母にはしたないと叱られた
数える以外、電柱の用途など知らないから
何で、と聞いてしまった
何で、と二回聞いてしまった
風景の端っこを小型犬を連れて婦人が横切る ....
人が沈む
沈むのに言葉はいらない
臭い肉体が一欠片あれば良い
沈む先が行き先
水底ならばそれだけで幸せなことだ
ただ沈め
美しい時代もある
酷い時代もある
すべては時代が理解してく ....
とり急ぎ、という言葉を初めて聞いたとき
鳥も急ぐのだと思った
正確に言うと
へえ、鳥も急ぐんだ、と思った
それはユウコの初めての言葉だった
今思えばあの頃
鳥は皆、急いでいたよ ....
午後が落ちている
歩くのに疲れて
坂道を歩く
人だと思う
エンジンの音
やまない雨の音
降り積もる
昔みたいに
曜日のない暦
夏の数日
確かに生きた
覚えたての呼吸で
....
水に濡れたまま
雨にうたれている
妻が傘の下からタオルをくれる
いくら拭いても
濡れタオルだけが増えていく
妻は可愛い人
こんな時でも傘には入れてくれない
濡れタオル屋でもや ....
窓の外に友人がいた
多分、窓などなかったのだ
お茶菓子も随分と出さなかったが
窓がなかったのだから
とても気は楽になっていく
何がそんなに友人なのだろう
適度なりに酒を酌み交わ ....
大塚駅前で砂鉄を集め終えると
人がプールになる
僕がプールになる
水に、むしろ
水が、の話として
全体的に集まればプールだよ
小型犬もゆっくり通り過ぎて
日差しを浴びる
僕 ....
改札口から人が出てくる
そんなこと言って
出てくるのが人である
時々そんなことがる
自分の部屋が改札口に直結している人は便利な反面
人の出入が多くて大変だし、退屈もするし
僕はそんな時
....
海水浴場で父を洗っていると
監視員さんがやってきて
ここは海水浴をするところです、と言う
洗っている、といっても
石鹸もシャンプーも使ってないし
水を身体に濡らすところなどは
....
冷蔵庫の中から動物たちの鳴き声がする
中に動物園が出来たらしい
食材などに用があったのに
動物や檻の合間を縫って
上手に取り出せる自信がない
仕方なく、冷蔵庫の隣で
キリンの口 ....
店員さんが運んできたコップの中に
凪いだ海があった
覗き込めば魚が泳いでいるのも見える
こんなにたくさんの海は飲めそうにない
先ほどの店員さんを呼ぼうとしたけれど
彼女なら里に帰 ....
雨季、冷たいだけの
椅子に腰
かけて
朝方の蝉が穏やかに
絶滅していく様子を
眺めていました
手を伸ばす
伸ばす手が
その手が
範囲
何も守れない
窓があってよか ....
海の部品が落ちていた
大事な部品を落として
海は今頃
どこで凪いでいるのだろう
行方を捜すにしても
持っている地図は改訂前のものだし
海に関係する友達も
親戚ももういない
海を作っ ....
近所に世界の果てが出来た
白いベンチがひとつあった
僕らはベンチに腰かけて
パストラミのサンドイッチを食べながら
突き当りで折り返して行く飛行機を眺めた
世界の果ての地面にも小さな虫はい ....
郵便受けの側に男が立っていた
誰なのか聞くと
まぼろしです、と言う
最近のまぼろしは良く出来たもんだ
そう感心しながら
差し出された朝刊の尋ね人欄を見る
今日も僕は
行方知れずら ....
プラスチックが降り積もる
世界は彩と形に満ち溢れ
ラジオからはいつものように
幸せな物語が流れている
どのように話したらよいのか
君に話したいことがたくさんあるのに
話すべ ....
安売りをしていたので
星をひとつ買った
命名権付きということで
相応しい名前を小一時間考え
以前飼っていた犬の名前をつけた
部屋の電気を消すと星は仄かに瞬いて
偽物みたいに綺麗だ ....
バスに乗って目を瞑ると
私の中を通過していく
一台のバスがある
開いた窓から
誰かが手を振っている
懐かしい気がして
手を振りかえすと
バスは小さな魚になり
泳いで行っ ....
人が笑っている
マユミが笑っている
マユミは母
オサムは父
オサムは死んでいる
首を洗って待ていろ、と
テルヒコに言われ
二十年、首を洗って待ち続けた
首だけがただ
....
理由のいらない椅子が並ぶ
未明に墜落した紙飛行機の残骸と
食べかけのルーマニア菓子
砂浜の砂の数は
既に数え尽くしてしまった
栞の代わりに挟んだ魚が
静かに発酵して
すべての ....
ページを捲っていくと
その先に
廃線の決まった駅がある
名前の知られていない従弟が
ベンチに座って
細い背中を掻いている
とりとめのない
日常のようなものは延々と続き
梅雨の晴れ ....
ファミリーレストランで食事をしていると
同じ形をしたファミリーがやって来て
西の方角から順番に着座した
ブラザーはシスターに
シスターはマザーに
マザーはファーザーに
それぞ ....
アパートに似た生き物が
背中を掻いている
古い窓を開ければ子供の声が聞こえ
秋の風も入るようになった
父が死に
母が死に
君は僕と同じ籍にいたくないと言った
もう昔みたい ....
自転車の花が咲いたよ
靴ひもの言葉で
僕は君に告げた
今日も生活の中で
信号は赤から青へと変わる
軟らかなコンクリートの
優しさに包まれながら
もう少し眠っていたいけれど
僕の身 ....
妻の誕生日に
新車を買って帰ることにした
プレゼント用ですか
と聞かれたので
綺麗に包装してもらった
走り出して
一つ目の信号にも行かないうちに
タイヤの辺りから
包装 ....
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