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温泉宿はがらんとしていた
白く濁った湯が注ぎ続ける
昼に聞いた滝の音
湯気の向こうに
千切った半紙のような月
もうどうせ間に合わないと知って
少年はランドセルを鳴らすのを止めた
土手に咲く花々の名を
どれひとつとして知らない
草笛はこんな風に鳴らせるけれども
うっすらと閉じた
まぶた(まつげ)から
真白き炎
ああ、彼女は
恋をしている
雨の街は花園
ダリア・ヒマワリ・バラ
小菊・紫陽花・朝顔
花たちは楽器でもある
雨の細い指がそれを{ルビ弾=はじ}くと
蜘蛛の編んだ細い網に雫
ひとつひとつに虹がかかり
その上を二人連れ立っていく
時には酔った蝶と芳しい花
時には奏でる風と歌う鳥