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夏の夜風にあたろうと
歩いたいつもの道影に
黒い{ルビ塊=かたまり}が、ひとつ。
四つん這いの蛙はぢっと
夜闇を、睨みつけていた
翌朝歩いた{ルビ同=おんな}じ場所に
....
互いの杯を交わす
向かいの席で
微かに瞳の潤む
その人は呟いた
(今の僕は、昔より
孤独が澄んで来たようです・・・)
この胸の暗闇には
ずっ ....
深夜、スタンドの灯りの下で
古書を開き、ふと顔を上げれば
暗がりから、祖母の遺影が微笑み
隣には、先月三途の川を渡って逝った
富山の伯父の葬儀に行った
お礼に贈られた
金箔 ....
決して口にはしなくとも
(愛を生きる)と呟いて
今日という日を過ごしたら
目に映る周囲の人々が
いつも以上に潤わしい
家族の空気を帯びていた
そんな時は決まって
棒 ....
たとえば身に覚えの無いことで
誰かに文句を言われたならば
(すみません)とたった一言呟けば
事物は流れてゆくのです
流れるものは
流れるままに放っておいて
この世のことには ....
両腕を左右いっぱいに広げて
地上に立つと
全ての人を{ルビ臓腑=はらわた}が千切れるほどに
抱き締めたいと思う
風ノ人が、自らの内にいるのを感じる
降りそそぐ雨に濡れた道の上
白々と曇る空を{ルビ仰向=あおむ}けでみつめる
一匹の{ルビ蝉=せみ}
七日間の命を一心に鳴き続けた
体はすでに白く{ルビ濁=にご}りはじめ
六本の細足は宙に ....
もう何年も前のこと
ある夜のブラウン管の中
孤高のステージで
赤毛を振り乱して歌う{注ジャニス=アメリカの歌手}
夭折した彼女の生涯を
ナレーターが語り終えると
闇の画面に
白い文字 ....