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時の器に
夜がすこしづつ満たされていく
眠りついた月の横顔
埋もれた砂時計の砂丘は、はだしのぬくもり
天よりふる砂を見つめては
閉塞されたガラスにふれる
砂の音はや ....
夜明け前
蒼い空に
身を削る月がいた
誰にも気づかれることのないように
まして獣たちに さとられないように
目覚めた女が背をみせる
静まり返った山森は、眠りについたまま
星をなくした夜空 ....
知らぬまに
むかえた春の
さくらの 花が散る
ただ、はらはらと
ほら、春かぜが みなもをはしる
みあげる橋のその下を
通りすぎる水上バスに きそいあい
少女のスカートを
ほんの少し ....
眠りによりそう
咲きおくれた百合の白い想い
写真のなかにおさまったあなたは、
昔見せた笑顔のままで
私をみつめる
じゅうぶんに苦しんだのですから
もう休んでもよいのです
生き ....
瓦礫のやまにゆきが積もる
毛布をまとった老婦
明かりをとざされた夜の 白い息
あなたは、そのすべてを可哀そうだという
ここには明かりも暖もある
温かな食事も好きなだけ使える水も
重湯を ....
それはもうどこまでもはてなく
雪の原なのか それとも 雲海なのか
もう わたしの目には、区別がなくて
光をもとめれば
中空にむかうほどに 罪をとう青天は
くるしいほどに ....
弟ガイウ
母ガ癌ダト
マルデ命ヲツカサドル神ノヨウニ
母ノ余命ハ半年カラ一年
私ハワライナガラ
ソレヲ知ラナイ母ニ
来ルコトモナイカモシレナイ
来年ノ旅行ノ話シヲシタリスル
海ヲ渡ッテ ....
うすあかりの光りがまだら模様をえがく夜
わたしは、私を忘れる
「風が出てきたみたいだ。梢の影が踊っている。
ここには、街灯はないのだから…」
「月明かりね。風音が変わった ....
ここには海がないのです
人をあざける海鳥たちの鳴き声のかわりに
杉森をこごえさす雪の白さが
躊躇いもせずに町をみたしている
知らないもの同士が連れ添うような
紅茶のカップを二つ温めながら ....
看板ばかりが大きな
古ぼけたシェブロン
停留所のサインも なにもないそこに
長距離バスがやってくる
テール・ランプの冷たい光りの帯
夜の街は、行き場を失った静けさに満たされ
月の光さ ....
やせることにしました
夜も昼も
私の体は、重たい気がします
持っているものも これから
持とうとするものも 少しばかり多すぎるから
知らぬ間に
体にたまった/たまる澱は、いつまでも ....
冬の{ルビ至=たどり}ついた日
海峡は慈悲のない 風でした
限りなく動揺する
どこまでも
消え去る端をも
わけ広げる海風景
北風の冷たさに波頭は白く飛沫をあげ
人などだれ ....
わたしたちは生きのびて
また
残された年の
とびらが閉まっていく
精霊たちもねむる
誰もが永遠をくちにする夜
そとは降りはじめた
雪
落ちるほどに白さをます街は
いつ ....
十二月の今宵、それは生まれる
光りを放つ発光体さながら
何かの対価としてではなく
忘れていたすべてを思い出させる核のようなものとして
すでに街は、待ちわびる螺旋の中心を軸に動き始め
....
霧氷を知らない 海風の町に
ひと夜の冬化粧
許された 雪の舞う月の夜
すべてを白く染める 悪のような力で、
あなたの寝室の灯かりが消える
僕は自分であろうとして
逃げ出 ....
さかな色の、光が
夜の道を跳ねる
記憶にふる 蒼い雨の想い
街灯の光りは、やすらぎの
{ルビ七色=にじ}を生むこともない孤独に満ち
つめたい 明かりを揺らす
力尽き 腐植し始 ....
赤く染まる
芥子の花が咲き
乱れる
どこまでも続く
白い墓標の列
海鳴りの
やむことを知らぬ町
忘れようとしても
消え去らぬ {ルビ戦跡=きずあと}
{ルビ頭 ....
{引用=
変わらずにやってくる
やわらかな朝に手をふれるのが嫌になった
億千の人の一人でいたかったのに、自分に
うそをつくのに疲れた
少女の箱はもうなにもなくなって
そこから ....
夜空から剥離した星明かり
星騒に眠られぬ夜
人知れずやってくる 孤独は、
ただ一人でいることでも
まして、理解されずにいることでもないのです
それは、答を待ちわびるということ ....
雨に流された街は、
洗礼を受け
軽妙なステップを踏む猫が
聞き覚えのある昔の歌を
口ずさんでいる
秋はもう病んでしまっていたのです
倒れたショウカセンは、
( どんな英語の綴り ....
臨海線を越えれば
また一つ忘却の朝が 時計仕掛けのようにやってくる
未だ
ためらいのない無残なライトの明かりを車たちは放ち、
散水車の水のはねる音に
まどろみを破られた
わ ....
光りをなくした
名もない星たちが
うつむいては 化石のように
眠っている
ちゃんと笑ってあげたら
隙間に触れることだって できたのに
平穏という残酷な家の灯りに
夜の積み木を ....
革命的な言葉を口にしながら
麦わら帽子の海賊たちが船出する
追い風 あふれる秋色の陽光
夏をふりかえらない はしゃぎ声に
バルーンの剣を空に 掲げ、
略奪のためでも
自己の利益の ....
人の声がしていた
気のせいかもしれない
聞かなければ、
聞かずにすむのかもしれない
鬱蒼とした密林の獣道らしかった
薄日の差し込むそこは、鳥が時折 過ぎていく
朝ならばもう、あたしは学 ....
{引用=
( 乾いた木のままでは つらいのです )
( 秋がやってくるなら なおさら )
通り雨の大粒な なみだのような冷たい滴に
もうこれで 夏が終わるのを知りました
すぐにや ....
町には、
都会の路傍の実を摘み
ジャムを作る女もいるのです。
黒く指をそめながら、
けして与えられるものでも
買うものでもなく
何かを知るために。
立ち枯れる花たちが、
夏色を ....
夏空からのさそいは、
手にあまる 光りの束
私は私が赤く錆びてしまわないように
少しばかりいばった母親の顔になって
子供達の好きなパンを焼く
summer’s kitchen
女の ....
海に生まれながら
潮音から逃れようとするものたちが、
水を去る夏
鯨たちが死んでいく
うみべ
―●―●―●―●―
どこかからやってくる それは、
凄烈な怒りの かたまりのように追 ....
空色から生まれた風が、
少しの遠回りをして やってきて
季節の話をしてくれる
静寂に波打つ風紋の砂の褥
焼けた肌は、夏を貧欲にむさぼり
求めるそれを手にするまで けして 止めようとし ....
静かの海
ここはどこまでも静寂な 砂がさらさらと、
乾いた想いを落としていく
初めて出会った日を思い出しては
ナトリウムの大気に
耳をすませる
小さな部屋で聞いた
パステルの紙を走る ....
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