すれ違った自転車の子供を
振り返る
白線が
鮮明に割き続ける
通学路だったアスファルトから
子供たちの声が古いものから順に遠のいてゆく
肌で増殖する蝉の羽の ....
僕の血を吸ったばかりの
大きな腹をした蚊が
ベープマットの上を飛び過ぎて
週末に掃除しただけの木の床に落ちる
音はなく
羽ばたきもせず
すとりと落下した
自由落下のそのまんま
でも
....
デジタルは、夏の中
よせる波に追いつくスピード
で
車を走らせて
たどりついたなら
うすむらさきに暮れゆく
空と海のあいだを
歩こう
風にもゆるがない
涼しい背中
で
....
静けさに爪をたてるように
戦争という字を書く
音もなく
思いもなく
ただ戦争、という字を書く
限定された空に
浮かんでいる人を描く
....
本当のことをいえば
ほんとの私はこんなもんじゃない
すごいのだ
あたりの様子を伺いながら
どこかの家に入り込み何かを得ようとする野良猫のように
意味もなく尻尾を振り
くるく ....
となりのとなりのとなりのへやの
めざましどけいがなりやまないので
ゆうがた六時半にそとにでた
まだ日はしずまず
ふだんよりずっと赤いかおで
西のやまの端にキスするようだった
あんがいあ ....
干し竿に捉まったやかんが
風をすいこんで
ふるりゆれ
蓋はいつの頃にも
なかったようす
雲が影って
うつむき
口をぶらぶらしているやかんには
少し水が入っていて
のぞく顔を ....
あぐらをかいた男の人の
その太腿のあいだにあるその
小さな三角にすっぽりおさまるような女
でいたいのよ
あたしは人間
あたしは人間なのよ!
掴みたいもの掴んではなさない指だって ....
ゆらゆら揺らめく
かげろうの下にある水に入りたくて
僕は走り出そうとする
遠くに行っちゃだめよ
手を引き寄せられた
夏の日のいつか
日傘を差した母を困らせるなんて
したく ....
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