すべてのおすすめ
まいにち 階段の数をかぞえる
それが 母の日課だった
増えたり減ったりするので とても疲れる
と母はぼやく
階段のある家には 住みたくないと言った
階段がなくなったら ぼくの駅がなくなってし ....
夏は
ひねもす虫を追って
森にまよう
虫は
翅をひらき
森を飛びたつ
夜は
空の翅で
ぼくは飛ぶ
指のさきが星にふれる
真珠のしたたり
涙のあかり
アップルグリ ....
空のどこかに 始まりと終わりがあるのか
いつまでも一日が終わらない ぼくたちの
浮遊する魂の 影を見失うころ
すべてのかげが消えて そこから
すべてのかげが あたらしく生まれる
幾夜 ....
風の音がした
ふり向くと誰もいない
十八歳のぼくが
この街をつっと出ていく
いつも素通りしていた
その古い家から
いつか誰かの
なつかしい声が聞こえた
敷石を踏む下駄の
細い ....
夕方の六時に
ミュージックサイレンが鳴る
さみしく愛らしく
いぬのおまわりさん
七つの子のカラスではなく
赤とんぼでもない
ゆうやけこやけでもなく
家路でもなかった
だからとき ....
今日もいちにち
風の中を歩いてきた
ひとは揺れている雑草の
つくつくぼうしだった
音は声となり
形は姿となり
匂いは香りとなり
色は光となるように
風景は風光とならなければなら ....
西へと
みじかい眠りを繋ぎながら
渦潮の海をわたって
風のくにへ
海の向こうで
山はいつも寝そべっている
近づくと
つぎつぎに隠れてしまう
活火山は豊かな鋭角で
休火山はやさ ....
コップの中に
朝が残った
醒めきらないままの
水を分けあって
ぼくらはターンする
魚のかたちをして
水がうごく
きらめき降りそそぐ
夏のはじまり
ゆっくり水際を
泳いでゆく ....
ぼくはほとんど水だ
と彼は言いました
手の水をひろげ足の水をのばす
水は水として生きて
水として果てる
そのとき大気の端とつながり
水からいちばん遠い水と出会う
そこで彼は
はじめて彼 ....
アイスランドのポストマンは
白い氷の地平を越えてやってきます
彼女のところには
世界中からラブレターが届くんだそうです
毎日カバンいっぱいの愛の言葉を
ポストマンは顔を真っ赤にして運びつづけ ....
彼女の誕生日は七月七日
七夕の日です
そのせいかどうか
彼女は星がとても好きなのです
星のブローチとか
星の携帯ストラップとか
もしかしたら
三つ星のレストランとかも
でも彼氏は
せ ....
テッペンカケタカ
ホトトギスはそういって鳴くのだと
彼が教えてくれました
テッペンカケタカ
鋭く空を切りさいて飛び去る
そのとき空のどこかが欠けるのでしょう
あれから彼女の
空のてっぺん ....
アテネ・フランセの
フランス人のフランス語の先生に
彼は恋をしました
ジュ・テームあなたが好きです
彼のフランス語が通じません
日本語も通じません
ミラボー橋の下を
セーヌ川は流れるそう ....
その動物園の
彼女は羊の飼育係です
ぜんぶの羊の顔を
それぞれ見分けることができる
それがひそかな自慢です
不眠症の彼女は
ベッドの中で羊を数えながら眠ります
夜の羊はなぜか
どれも同 ....
黒ねこが
ペリカンを好きになりました
好きだという気持を
彼女にどうやって伝えようかと
彼はとても悩んでいます
ペリカンは水辺にばかりいるし
黒ねこは水が嫌いなのです
届かない想いを
....
まだ恋をしたことがないので
彼女はカルピスを飲んでみました
甘くて
酸っぱくて
冷たくて
あたまの芯がきいんとなって
失神しそうになりました
けれども
なんだか物足りません
キスの味 ....
シロツメグサで
首飾りと花束をつくり
ぼくたちは結婚した
わたしの秘密を
あなたにだけ教えてあげる
と花嫁は言った
唇よりも軟らかい
小さく閉じられた秘密があった
シロツメグサ ....
なにごともない虚ろな午後
ふと空をよぎる
鳥が
その日の栞になった
行くでもなく帰るでもない
ふたしかな彷徨い
花が
その道の栞になった
こころもとない眠りの果て
闇 ....
白いチョークで
ポケットいっぱいの
言葉をおぼえた
おさない遊び
二本の線を引きながら
公園をよこぎって
道路をまたぐ
景色がだんだん小さくなる
電車のように
かたこ ....
星と星をつなぐと
いきものになった
言葉と言葉をつなぐと
ひとになれる
指と指をつなぐと
こいびとになれたかもしれない
夜になると
貝を洗うような音がする
わたしの星が ....
本のページをめくる
あなたの指が
風のようだと思った
あなたの中で
長い物語ははじまり
長い物語はおわる
本を閉じると
あなたはすっかり年老いて
物語のドアから出てゆく ....
いつものように
バスを待っていたら
象がきた
大きな耳のようなドアから乗る
いつもの道を
いつもどおり走っている
だが停留所が
いつもとちがう
パンパス三丁目 オアシス北 ....
きょう
たんぽぽとはるじおんを食べた
すこしだけ耳が伸びて
神様の声をきいた
あしたは
すみれとばらの花を食べる
すこしまた耳が伸びたら
まだ聞いたことのない
あなたの声が聞け ....
山国で育った
目をとじると
どこまでも青いものが広がる
海だった
そうやって彼は
ときどき山を越えた
どど〜んと鯨になる
風のように
しなやかに両腕を伸ばし
....
西瓜のように
まるい地球をぶらさげて
その人はやってきた
裸で生きるには
夏はあまりにも暑すぎた
冬はあまりにも悲しすぎた
ぽんぽんと叩いて
いまは食べごろではない
と ....
魚を丸ごと
皮も内臓もぜんぶ食べた
それは
ゆうべのことだ
目覚めると
私の骨が泳いでいる
なんたるこった
私を食べてしまったのは私だろうか
どこをどうやって
....
電車の好きな少年だった
窓のそとを
いつも景色を走らせていた
乗客はいなかった
やがて彼は
景色のなかを走った
走りつづけた
いくつかの景色をつなぐと
電車にな ....