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林檎が地面に落ちるように
名前がきみに落ちてきたのか
それともきみが落ちたのか
兎にも角にも
もはや後戻りは出来ない(と、思う
柔らかな髪の一本一本に
小さな指の桜貝に
きみの名前が刻印 ....
名前がつけば安堵する
しわしわで ふにゃふにゃで
べたべたの
泣いてばかりの赤ん坊が
可愛いわが子に変身だ
名付け辞典と首っ引きで
ノートにいくつも書き出して
字画を数え 占って
若 ....
空になった子宮は
痛みをともないながら
少しずつ
小さくなっていったけれど
物語はまだ
そこに残っている
気配がした
だれもが
語りたい と
思っていた
産むという行いは
ど ....
どこからか草刈り機の音が聞こえる
生ごみをコンポストに入れる
夕方の風は涼しくて
空には五本
爪で引っ掻いたあとがある
端っこの赤いところから
ゆっくりと解け、崩れていく
なにかもっと真 ....
四ツに割ったリンゴを
庭の木の枝に刺しておく
この冬を越せますように
ヒヨドリたち
どうか無事に越せますように
海峡を越えていく鳥もあるという
敵に襲われぬよう波のうえ低く
群れ ....
海に
忘れ物をとりに行っているあいだに
植物はそろりそろりと
水を探して気根を伸ばしている気配
あなたは海辺をさまよいながら
まぶたの下から不安げにそれを視つめている
あばら骨が上下して呼 ....
どうして夏は暑いのだろう
南半球の八月を思い
冷たく白い夏を想像してみるけれど
ひんやりともしない
フローリングに横たわっていると
少しは涼しいから
寝転がって
窓越しに雲が
左へ左へ ....
いま 窓の向こう バスが通り過ぎた
家の近くの停留所
僕の乗ったことのないバス
バスは走っていく
静かな夜の街路に
大きなエンジン音を響かせて
十字路を真っすぐに横切り
マンションの四角 ....
子犬はふくふくと温かかった
抱くのに心地よい重さだった
ゆっくりと地べたに子犬を置いて
あたしは
5階まで全速力で階段を駆け上がった
息を弾ませながら窓の下をのぞくと
子犬はきょとんと座っ ....
少し甲高い おさないその声を
目を細めて 懐かしむ人がいて
はじめて
失われることに気づく
風はとどめてはおけないから
目を細めて 懐かしむ人に
自分を重ね 手を重ね
それでも 吹 ....
根は分解されて土に還っていた
枝の先にわずかに最期の吐息が残っていた
去年咲かせた花の種を形見に取っておくんだった
オー マイ リッラ
後悔はいつだって遅刻する
ぽっかりと丸い穴が空席 ....
夜に爪を切ります
迷信は知っています
そのとき をあれこれと想像してみます
みっともないほど泣きわめくかも と思います
ハンカチが二枚は必要でしょう それとも三枚かな?
鼻紙も忘れずに用意し ....
鳥の名前を覚えることから
始めようと思うの
と、その人は言った
たとえば、つばさを一瞬たたんで飛ぶ
あの鳥の名前を覚えたら
あの鳥はもう
見知らぬ鳥ではないでしょう?
さらりと雪 ....
たとえばマリアナ海溝のヴィチアス海淵に
古びた靴が片方だけ沈んでいたとして
その古靴が本物の牛革で
しかも、腕のいい職人の手によるものなら
そこから物語は始まるかもしれない
用水路の土手 ....
おはよう と言うよりも先に
十二歳になったよ と
報告をする朝
きみはまだ翼の下
生まれてきて良かった? の問いに
素直に微笑む
きみのまだ知らない
悲しみと苦しみ
平坦な道のりを願 ....
ななかまどの実は優しい
目覚めるにはまだ早いの、と
種を包んで眠らせる
外は雪、小鳥たちには信号
わたしはここよ
赤く光って合図する
ついばまれる実
やがて種は
生まれた場所を ....