七月、あなたは海にいる
北野つづみ

海に
忘れ物をとりに行っているあいだに
植物はそろりそろりと
水を探して気根を伸ばしている気配
あなたは海辺をさまよいながら
まぶたの下から不安げにそれを視つめている
あばら骨が上下して呼吸は
羽ばたく苦しみが静かにくり返され
胸の上に組んだ手はぴくりとも動かず
(動かせず)
河の向こうではない
橋を渡るのでもない
どこまでも平らで
地続きであるところにある植物の
その、白い花が満開になったら
あなたは逝かなくてはならないのだから
海へは行かないように
と、どれほど気をつけても
波は足を濡らし
想い出をさらっていくので
熱でとろけるバターみたいに
抗えない
(ああ、それはだれだって等しく)
とろとろと海辺から
花の蕾が少しずつほどけてゆくのを
あなたは今日も
まぶたの下から視つめている
わたしも視ていますから
側にいますから と
ベットサイドに立ちつくす七月
あなたはいま、海にいる




自由詩 七月、あなたは海にいる Copyright 北野つづみ 2009-10-07 09:28:26
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