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殺人事件があったが誰も騒がない
明日になれば忘れることができるし
隣の家の事件でも
こんばんわと挨拶するほどの仲でもないからと
テレビのニュースも素通りするだけだ
何のことはない
....
蝉の鳴き声が止んで
鬼ごっこしていた子供達が
みんな消えてしまった
木陰の小さな窪みには風が休んでいて
小さなため息を一つついている
じっと息を潜めていると
いつの間にか違う世界に
....
悪い癖だと叱られた
食べてすぐ横になると牛になると言われたが
病人は食べてすぐ横になっても
牛にはならなかった
子ども心に不思議に思った
病人は注射を打っているか ....
可視化したものだけを残して、後は全部切り捨て、無常という薄い備えを敷いて重なろうとしている。男と女は、言葉ではなく、重ねた肌の温もりでもなく、濡れた余韻でもなく、汗ばむほどに不安なのだ。
二 ....
この頃はパソコンを筆の代わりにしている
指先だけが大きく成長して脳の一部は退化してしまったが
それでも老いの防止にはなるからと
漢字などの変換機能に思考の一部を委ねている
....
秋刀魚の焼く匂いに誘われて野良猫がやってきて
こんにちはと挨拶するわけではないのですが
いつの間にか油ののった秋刀魚を口一杯に頬張って
一緒に秋の味覚を楽しんだものです
七輪という魔法 ....
人の死が一層悲しくなる季節がやってきた
他人には聴こえない声が生まれてくる
とすれば 私は私の記憶に疑心を残したまま
季節を飛び越えなくてはならない
夏が終わって秋が始まるという一小節は
....
あまり器用ではない指先で黄昏時の風景を繕い始めると
粗野な一日が少しずつ整理されて見え隠れしてきます
落穂拾いのように身を屈めた姿勢は屈折した姿 ....
前に出る
その一歩に躊躇している
エスカレータは音もなく上ってくる
そして何事もなかったように
音もなく下りていく
その一瞬だけ誰にも気づかれず
時間の中に取り残されていく
どんと老いの ....
雪が苦悩するように、乱れ飛びながら地に落ちてくる。その一角で男と女がとけ合っている。ときおり風が交じり合い、男と女は冷え切った五感を、互いにさすり合い、男は立ち姿を気にしながら、雪に交じり合う女を ....
まき水をしてみる
夕立を誘うように
蜃気楼の先から
風鈴電車が走り抜けてくる
虹の橋がゆっくりと空へと伸びていく
....
玄関の中には母が待っている。大きな声を出し始めたので、急いで玄関の扉を開けなければならないのだが、鍵が見つからない。ぽっこりと膨らんだ小銭入れの奥深くにしまい込んでいるのだが、慌てているから手許が ....
古くて重いげき鉄を
引き起こして打つ単発銃を
最新の銃だと陸軍上等兵は誇らしげに説明しながら
天皇陛下という四文字を並べる前には
最上級の姿勢でしかも深々と頭を垂れる姿は絵になった
桜 ....
孤独な家である
夜になると
独り言のように明かりがぽつんと灯る
人の気配はするのだが
玄関がない ことりともしない
死んでいる ....
満点の暑さを引き連れて
夏はやってきた
蟻の大行列は
トンネル深く沈み込んで働くことを諦めた
公園の噴水は
温水となってまわりに放出し始めている
花々は枯れ始めた
....
今日買った命の類の幾つかを
家計簿に記入し冷蔵庫にしまい込んだ
冷蔵庫の中には
買い置きしていた命の類がまだ残ってはいるが
あっという間に日替わりするから
大安売りの命の類であっても
家計 ....