すべてのおすすめ
私の石はいま
眠っている
眠りながらも
あなたに関する記憶を育て
あの日と それにつづく日々を
絶対性のなかに閉じこめている
それほどに強い
あの日の記憶
どんな時間が私の上を
通り ....
空から枯葉が落ちてくる
頭上の木から切り離されるのではなく
空の見えない高さから
無音とともに落ちてくる
空の見えない高さの
さらに高いところの
その向こうがわ
宇宙の深淵のような場所か ....
まだこれからも
咲いてゆくのだと思って
種を蒔く人がいる
空がこときれたように
雨がとつぜんやみ
後には思い出のように風が流れていた
大地もしっかりと
流れていて 古い
しきたりの中で ....
もうこれからは
咲かなくてもいいと思って
道を掃く人がいる
枯葉やら 紙吹雪
あるいは花びらと 花そのもの
それらで埋まった道を
木の箒で掃いていると
うっすらとにじんでゆくような
心 ....
生活をしていると
すべてが透明になってゆく
それが良いことであるのか
それとも悪いことであるのか
そんなことにかかわりなく
すべては透き通って
その存在感を緩やかにする
今日も洗濯をして ....
枯葉が吹かれて
かさかさと鳴る
その音を骨身にまでしみこませて
つぎの角を曲がる
そこを過ぎれば 私の影は
通り過ぎたところには残らない
背後に置いてきたのは私自身が
思い出として残らな ....
みずからの
罪に気づかない
それでいながら どこか
奇妙なうしろめたさを思って
隠れてしまう
逃げてしまう
みんなが笑い
さざめき 声を
かけあう中で
ひとり帰る
橋をわたって
....
焼き終ると
かたちはもうなくなっていた
まだわずかにのこっているだろう
最後の肉を焼こうと
熾火が立ち上がっていて
それはいのちの終りの
かがやきのようにも見えた
(そして、骨だ ....
燃えたあとには
かわいた灰だけがのこる
開いた森に
自らに似たものが
点々と横たわり
その足跡のようなくぼみの
ひとつ、ひとつ、に
降りつもるものがある
それらがどのように
....
季節の変り目には
雨がよく降る
いまがまさにそうで
冬から春へと
季節がわたろうとしている
そういえばあいつも
こんな時に死んだのだったな
そう思ってまだかたい
桜のつぼみを見上げる
....
こんなふうに
手足が生えそろって
二つの目と耳があり
呼吸も嚥下もでき
発語さえできる口があるのは
不思議なことだ
それが人間の
かたちとして当たり前に
認められているのも
不思議な ....
誰も待ってくれないから
みんな子供であることを
あきらめるしかなかった
そうして前を見て進み汗をかいては
花の色でさえも忘れていった
たがいの溝を埋めあっても
ひとりずつは変らず小さく
....
天気はさまざまなものを
当たりまえのものであるかのように
人に見せる
そうして見せながらも黙っている
黙っているから人は勝手に騒いで
動き回ってくれるのだ
道の真中過ぎに
坐っているもの ....
私たちは小さなものであり
小さなものであることの上に
居座っていた
当然のような顔をして指をなめ
ずるがしこい風を読み
来た道を戻っては
前と同じような幼い顔をしてみせた
そうして世界は ....
眩しいと思って見上げると
それぞれの吐き出す息が
ただよっているのだった。
たまったものを
ためられたものを
いっせいに解き放ちながら歩いている、と
どれが誰の息であったのか
わからなく ....
{引用=――にんげんは
抽象する動物なんだな
(北村太郎「悪の花 2」) }
鳥の目醒めがあって
それから少し遅れて
人間の目醒めがあって
それからだいぶ遅れて
私の目醒 ....
日本において詩は、難解であるか平易であるかというふうな語られ方をされやすい。詩作品をいくつか並べてみてどれが難解でどれが平易であるかというのは、誰にとってもわかりやすい物差しであるから、そうなってし ....
ものの名を知ることは
世界ととけあうことだ
曇天の下
すべては自らを中心に
分断されている
その心がかなしく
またこわいのだ
誰も知らない場所で
花が落ちるように
周囲から急速に暮れ ....
るいるいと
つみかさなり
荒涼をうめつくす石
これは誰かの
さいぼうであるか
それらの石が記憶の
かけらであるとしたら
この場所に吹く風も
意味を孕むであろうが
ただ過去を予 ....
病人は目を醒まし
言葉にならない声でさけんでいる
葬儀屋が切り取った脚を
箱に入れて去っていく
皮膚は黒かったが
骨は白いままだろうか
もっと遠い窓の向こうでは
咲いたばかりの花が
離 ....
この時代、未熟な力が求められている。いまだ生まれえない、いつ
までも成長することのない力。たとえば秋のにおいのする草原に行
けば、妹という名の下にそれはごろごろと転がっている。妹のやわ
らかさを ....
夕焼けなんてなくなってしまえばいいとおもう。昼と夜
をへだてるものをなんとなくつないでしまう、そんなち
ゅうとはんぱな橋は、星からやってきたぬすっとにくれ
てやるか、三日月のくらいぶぶんになげこ ....
散歩が好きだ。ゆっくりと、目的地を決めずに歩く。春や秋の、それぞれの季節の風物を感じながら、ひとり歩を進める。そんな感覚が好きだ。そして、歌をうたう。そうすると、人からおかしな奴だと思われる。人は陽 ....
茅ヶ崎の海を憶えていない
浜見平保育園も
それから後の二宮の
梅花保育園のことも
みんな憶えていない
母にきけばあの頃
ひとりで保育園をぬけ出し
街中をさまよっていた
こともあった ....
水の本を開く
文字は流れ出し
意味は溢れ出し
あとには
水の思想だけがのこる
川によってはこばれ
人びとの喉をうるおしながら
水の暗喩が偏在する
その波の繰り返し
晴天と雨天の交替
....
{引用=po・et・ic ―― a. 詩の、詩的な、詩趣に富んだ、詩に適する、詩人の(ような)
stig・ma ―― n. (pl. 〜s, stig・ma・ta )〔古〕(奴隷や囚人に押した)焼 ....
ことしもまた春が来て
暖かくなって
やがては暑くなる
またしても
煩い季節になりつつある
驕れる者 久しからず
正しきも
疚しきも
また同じ
そんな世捨て人のようなことを
つぶやき ....
もうすぐ
九百九十九年になります
その頃には
ひまわりも咲いているでしょう
絶望から生き残った
藁のような人びとが
ゆらゆらとゆれているでしょう
咲いてしまうことに
罪はなくて
咲い ....
ひとつぶの声・ひとつぶの水
{引用=
祈る人は知る
自らの歌が
ひとつぶの声であることを
自らの祈りが
ひとつぶの声であることを
橋を離れ
その下の暗黒を離れ
いまや大河の様 ....
遠くで呼んでいる
{引用=
また
もうひとつの朝
祈る人は いつものように目醒める
いつものような 川の歌
いつものような 川沿いの歩行
いつものように
滞りなく
祈る人の一 ....
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