夕暮れの風が皮膚に冷たくあたる頃
さざ波がわたしの足をさらっていく
水にうもれた死は
ゆっくりと潮をひいていく
(ゆれる)
悲しみに
消えてしまった夕焼け
わたしを照らすものは
無 ....
藍色に染まっていく
わたしの目の前には
小さな蒲公英が
たくさん並んで
誰かが一つ一つ
ふみつぶしていく
その様が
おかしくて
笑ってしまった

深い所にある
重いトビラ
 ....
夕焼けの水平線に
引き込まれるわたし
明日の事も
分かろうとせず
無を、怖がる

窓辺に映る雲は
西へと動き
わたしは
小さな音を鳴らしながら
ゆらゆらと流れていく
裏がえっ ....
あなたの名前は
この悲しみに似ている
木霊になって消えていく声を
遠く向こうに感じた
その冷たさ透明さが
あなたなのだと思う

繋がらない海と雨とが
真夜中にせめぎ合う
ざわめく ....
しずやかに睫毛を下ろした女の人の
うっとりと水が疾走する線路の方角に
暮れては滲んでしまう稜線がその輪郭を喪ってゆく
眠れない枕木は鍵盤となって揺れながら
囁かれた嘘の吐息にしがみついた
 ....
二十三年間生きてきたのに
おめでとうのひとつも
満足に言えない
そのことについて
頬杖をついて考える
一人で
室内で吐く息は白い
ストーブは足元ばかりを熱くする

家 ....
 
電話ボックスの中で膝を抱えていたね
名も知らぬ群青の子


あの人に前髪を触られたい
そうして
あの人は鶏頭の花に口を寄せるんだ
あたしは
まだよちよち泳ぎながら
アールとエル ....
 
まるで、その背中から
おぼろに光る翼が生えてきそうな
おんなのこ達
三十を過ぎても
ひらひらと

生きていると初めて知るのは
人が曲線で結ばれている
と解る時だ


黄 ....
水曜日
僕は喫茶店のテーブルに座って
哲学者のように沈黙していた
ミミ子に別れを告げられたのは
先週のことだった

ミミ子は犬が好きだった
犬を飼うのでイサオとは別れる
 ....
街路樹の堅い葉は濡れて踊りだす
無愛想な舗道は墨絵になって
走りだす鞄と鞄と
迷っている靴
戸惑っている乳母車
泣きそうな晴れ着
得意そうに廻るアンブレラ
街は雨に沈んでゆく
巡 ....
ちいさな掌を
ひとつ結んでは覚えてゆく指あそび
ほんとうなんて要らない
と言い聞かせながら
それは未だ新しい

老いさらばえた両腕は
調和したスープと
子守歌で満たされる
動かな ....
『亜紀子さんや、小遣いくれんかの?』
「また、ですか。昨日あげた二千円は、どうしたの?」
『あ?…あれは、もう使ったから無いんじゃ』
「もう、まったく!ウチだって楽じゃないんですからね。お爺ちゃ ....
 

雛壇は燃え尽きた
軽い母を背負って
彷徨う脚がつる
ここらで捨てな

早口で
母が云う

あの鞭で叩かれて
怯えながら
でも
忠義は誓わなかった
本を抱えて
黒い ....
いつもとは違う道を帰った日の彼女
もう歩けなくなって
駐車場の水溜まりに降る雨の波紋を見ていた
つめたく完璧な丸を描いて
にびいろの波紋は静かな口調で責めるから聞いてしまう
そうだね幾つ ....

ひとあし歩くごとに
わたしの身体からは石が落ちます
からからに乾いた石は
薄い色をしています
わたしはそれを
さらさらかちかち と踏みしだき
疲労し続けましょう
名 ....
わたしらが抱く少女幻想の姿れの果て
一体そんなうつくしいものがどこにあるのと

血や肉で出来たわたしら見えないものでしか繋がれない

まるでひとつのものだとでもいう風に
わたしやあ ....
誰も知らないところへ行って
私は黙って砂を掘る

気に入らないの と言えなかったから
砂にうずめてどこかに流す

浜辺はそんなものばかりで
私が知っているだけだけれど
あの子が立ってい ....
さよなら という

空想を食べて開いていく

私の体
私の心

空へ腕を伸ばせば素足は土に

さよなら
さよなら

掌に太陽を 乗せて

この魂は 開いていきたい

 ....
      潮風にのって白髪が
      飛散するのを
      じっと 
      唇をかみ締めて
      耐えていた、
      (藤壺を舐める舌の痺れ)
     ....
お兄ちゃん、と
呼ぶのが
照れくさくて
そのまま
僕たちは年をとった。

あなたは家を出て
後を追うように
私も出て
あなたは戻り
あるいは他所の国へ
私は
死ぬまであなたの弟 ....
あたしの町のあたしの川の向こうにはあたしだけの工場が在る。
其処は終日稼働式で、何時でも好きな時に好きなだけ眺める事が出来る。
くすんだ灰色の煙突は大した高さでも無いのに
チ  カ  チ   ....
 
(がたーん)汽車は
(がたーん)傾き 
(がたーん)桜の
(がたーん)花々弁は
(がたーん)はらはら
(がたーん)はらはらと
(がたーん)CHILLed 
(がたーん)CHILLe ....
裏庭のトマトをもぐようにわたしはわたしになまえを
いくつもつける
(たとえばフランチェスカ、など)
そこにいるわたしテーブルのうえのわたし
わたしがすでにいないところにいるわたし
テーブルの ....
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