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いつもすでに記憶だった夏の日に
俺は裸体を晒した少年少女達と
沖合を鳥が群がる海を見たかったが
だれひとり気付かぬうちに
海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた
熱気だけが渦巻く無音の嵐に ....
ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力
街を歩いてもアスファルトに走る無数の亀裂
から滲み出てくる闇を見つめるだけだ
ああ この皮膚がすべて剥がされても
感じているか ....
九月の雨
今日は雨降り
九月に入って初めてだ
小雨から本降りになると
コーヒーショップの窓の外を
アノマロカリスが泳ぎ始めた
カンブリア紀の海棲生物だ
雨足がさらに増してゆ ....
ドキがむねむね
毎日コーヒーショップに来ては
テーブルにノートPCと書類を広げて
何やら書いたり考えたりしている
メスのニワトリがいる
近くのオフィスに勤めているのだろう
赤 ....
白いコーヒーカップが
モジモジしている様子なので
どこか痒いのかと思い
指先でひとしきり掻いてやった
すると紫色の煙が立ち昇り
ケータイの着信音みたいな
安っぽいファンファーレと共に
....
コーヒーショップで冷コ中
窓の外ではトウモロコシが
半被を着てイカ下足を焼く夏祭り
駅前広場に設営された
野外ステージではカラオケ大会
たまにはこういうのもいいな
近くの信用金庫のOLが
....
コーヒーショップに夏が来て
向かいの席の女子高生が
ブルーソーダを飲み始めた
青い液体をストローでチュー
コップの中身が減っていくにつれ
女子高生は足先から海になっていく
水位は下腿から太 ....
1966年 ザ・マッコイズは
アメリカ中西部の街で「Come On, Let's Go」を歌った
飛行機事故で死んだメキシコ系アメリカンのロックン・ローラー
リッチー・ヴァレンスの曲のカヴァ ....
トキエは泣いている。薄暗い納戸の奥の、
紅い鏡掛を開いた鏡台の前に座り、泣きなが
ら化粧をしている。「おかあちゃん」幼い私
はトキエに纏わり付いて、その名を呼び続け
ている。戸外から蜜柑 ....
海藻の匂いが漂い
干し蛸がぶら下がる漁村の道を
おとめは エシエシ笑いながら歩く
焦げ茶色に焼けたうなじを
苦い潮風が打つ
塩をまぶしたような髪をほつらせ
おとめは よだれを拭きながら ....
{引用=―M・T君に―}
「てんぎゅうをとりにいこう」
きみがそう言った夏休みに
ぼくらは残忍なハンターになる
もくもくと青空に湧く入道雲
稚魚の群れが回遊する島の海を
ぼくら ....
初夏
少年の頃
お話の木の絵を見た
広葉樹の木陰で
子供達が
眼を輝かせ
耳を傾けている
お婆さんのことば
森や草原を漂い
風に運ばれて
村や町や港や
海や諸国を巡り
....
野良猫が生垣から顔を出して
じっとこっちを見ている
/かけとび
あやとび/
/ステップとび
去年はできなくて癇癪を起していた
ふふふ、まあ頑張れよコワッパ と思った ....
世界の最果ての部屋で
無音のテレビが瞬いた
鬼が私を探しに来る
緋色に染まった夜の海から
シルクの魚雷に跨って
鳥は巣で寝返りを打ち
子供は母に抱かれて眠る
夜の付き添いに疲れて
人気のない待合室の
ソファでうつらうつら
窓際に置かれた
ヒヤシンスの根が
くねくねと
夢の中まで伸びてくる
先端の脈動に
病院のすべての機器が
....
南へ向かう鳥達が
薄色の空に溶けて行った
きみは衣装棚から
厚い上着を出してきて
胸元に飾った小さな憧れを
そっと隠した
子犬が地層の匂いを嗅いでいる
鳥の化石に恋をしたんだ
....
巡り来る日々と
ぼくらの幼い憧れとの隙間から
木洩れ日のように降り注ぐ光
聴こえて来るだろう?
光の後ろ側の国から
あの/弾む息が
リズミカルなステップが/
国境線で
少女 ....
七歳のみーちゃんが
やっと乗れるようになった
練習した甲斐があったね
ぼくは思うんだが
中高年の足腰の衰え防止に
一輪車はいいんじゃないか
イオンの売り場へ行って
人目を気に ....
一年生と合同で走った
スタート直後はなんと最下位
結果は三十九人中で三十番
「二年生なのに情けない」
パスタランチを食べながら
お母さんとお婆ちゃんが嘆く
「十人ぐらいぬいたよ」
....
海が
めくれてゆく
いくつもの
いくつもの
海が
めくれて
岸壁から
追い縋って
宙を泳ぐ指先に
紫貝のように
閉じる音楽
(母は海に還ったのだ
街が
たわ ....
ゴルフ焼けしたいい親父になった
今では大阪の営業所長さんだ
―僕らの音楽を理解してくれる人は
この広島に一人か二人ってところだ
だけど これだけは確実に言える
僕らは凄いことを ....
あい変わらずぼくは
かなしみを知らなかったから
トーイチに会いにゴミ捨て場へ行った
夜中に網小屋まで降りて来て
悪さをする星どもなら知っとるがの
じゃが かなしみは知らん
カン女に ....
樹木
山桃の実のぶつぶつの舌触り
葛のつる川土手の樹を緊縛す
炎天や犬の尿に樹木立つ
昼の樹の葉叢の奥の星の夜
窓を叩き梢が夜を連れてきた
....
ぼくはいつも
あおい国を探している
仕事場へ向かう朝の舗道で
灰色の敷石の
一つ一つの継ぎ目から
あおが立ち昇る
草原の朝露たちが集まって
小川になり大河になって溶けて行く
....
子供の頃
ぼくは信じていた
何処か遠いところに
黒い湖があって
そこには首長竜が棲んでいる
(お父さん
黒い湖はどこにあるの?)
ぼくが尋ねても
お父さんは何も答えずに
....
よく晴れた夏の日の朝、私は海岸沿いを走る電車のシート
に座っていた。ふいに砂浜のぬるい風が窓から吹き込んでく
ると、私が飲み干したペットボトルの中に、しゅるしゅると
渦を巻きながら吸い込ま ....
じゅうじか?
ううん
かざぐるま?
ううん
なにかのかざり?
ううん
なに?
しゅりけん
チラシを細く丸めた棒を二つ
十字形に組み合わせて
セロテープでぐるぐる巻いてあ ....
ボディの色が気に入ったので
エレキギターが欲しくなった
メーカーの最上位機種
カラー名はアバロンとある
「AVALON」は
イギリスの何処かにある伝説の島
アーサー王の遺体の眠ると ....
あなたが残して行ったもの
俳句を連ねた小さなノート
表紙がぼろぼろになった聖書
漱石の「虞美人草」と
若山牧水の歌集
壇の上の 薄い写真の中の
やわらかな微笑み
かつてあなた ....
冷んやりした部屋の
窓際に椅子を置いて座る
裸電球に照らされた
オレンジ色の壁に
魚の形の滲みが付いている
じっと見つめていると
風が梢を揺らす音に混じって
足音が聴こえてき ....
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