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壁に{ルビ掛=か}けられた
一枚の絵の中の蒼い部屋で
涙を流すひとりの女
窓からそそがれる
黄昏の陽射しにうつむいて
耳を澄ましている
姿の無い誰かが
そっと語り ....
気がつくとその{ルビ女=ひと}は
明け方の無人列車に乗り
車窓に広がる桃色の朝焼けを
眠りゆく瞳で見ていた
列車がトンネルに入ると
全ての車窓は真黒の墨に塗られ
闇の空間を ....
夏の夜に
いくつもの太陽を揺らすひまわり達
仕事帰りの疲れた男に
わさ わさ わさ わさ
大きい緑の手のひらを振る
日々の職場では
密かな善意を誤解され
....
雨の降る夜の路地裏を
酔っ払いの男は一人
鼻歌交じりに
傘も差さずに歩く
涙色の音符を背後に振り撒いて
雨は降り続き
路上に散らばった音符は濡れて
よろけた男の後ろ姿は ....
人々が漏らす{ルビ溜息=ためいき}で
街の輪郭が{ルビ歪=ゆが}む土曜日の夜
場末の Bar の片隅で
翼の生えたアダムとイブの人形は壁に{ルビ凭=もた}れ
虚ろな瞳で古時計をみつ ....
パソコンが
空っぽの箱に見えてしまったら
部屋の明かりを消して
Tom Waits の「GRAPEFRUIT MOON」を流そう
グラスに入れたぶどう酒を{ルビ喉=のど}に流せば
....
{ルビ埃=ほこり}がかったランプの下
赤{ルビ煉瓦=れんが}の壁に{ルビ凭=もた}れ
紙切れに一篇の詩を綴る
クリスマスの夜
遠い昔の異国の街で
一人の少女が売れないマッチに火を ....
鏡に映る「私という人」は
だらしなく伸びた髪を
ばっさ ばっさ と刈られていく
( 少しくたびれた顔をしてるな。
( いつのまに白髪が混ざりはじめたな。
幼い頃
{ルビ日 ....
幾枚かの{ルビ花弁=はなびら}が舞い落ちる
淡い光のあふれるいつかの場所で
あの日の君は
椅子に腰かけ本を読みながら待っている
いたずらに
渡した紙切れの恋文に
羽ばたく鳥の ....
旅の終わりの夕暮れに
車窓の外を眺めたら
名も無き山を横切って
雲の鳥が飛んでいた
{ルビ黄金=こがね}色に{ルビ縁取=ふちど}られた翼を広げ
長い尾を反らし
心臓の辺 ....
休憩室の扉を開くと
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた
ほんのささいなことで
誰かとすれ違ってしまいそうで
思わず僕は身をかがめ
左右の靴を手にとって ....
東の空に日が昇る早朝
工事現場の低い土山の頂に
クレーン車が一台
運転席には裸の王様が{ルビ居座=いすわ}っていた
黄色と黒の{ルビ縞々=しましま}の
柵に囲まれた小さい世界の ....
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