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出先の喫茶店で「童心」がお題の
コラムを書いてから、自宅のママに電話した。
――じゃあ、読むよ。
――今、周に聞かせるからちょっと待って。
ママが携帯電話の音量をあげてから
できたて ....
何故生きるかって?
目の前を覆う
すべての霧を射抜いた
明日という、夢の為さ
無人の霊園に吹き抜ける
夕暮れの風を頬に受けて
墓石の下に隠れた祖母に
両手を、合わせる。
背後を振り返り
見渡す故郷の山々に
あの頃よりも増えた家々は埋もれ ....
夕暮れの歩道橋から
今日も街ゆく人々を、眺める。
一人として同じ顔はないけれど
無数につらなる足音に耳を澄ませば
ぼんやりと
誰もがのっぺらぼうの
丸い顔に見え ....
ふみきりよ、ふみきりよ
無言で開いて直立する
{ルビ縞々=しましま}の柱に付いた
夜道を照らす、照明灯よ
ショパンの幻影が弾くピアノを
イヤフォンから聴い ....
この世の者ならぬ
あの(瞳)が
私の心の暗闇を
覗き込む時
空に薄っすら浮かぶ
あの(瞳)を
私もじっと
視るだろう
目の前に立つ
あな ....
「コチラハ廃品回収車デス
御家庭デ不用ニナリマシタ
テレビ・エアコン・冷蔵庫等
壊レテイテモ、構イマセン 」
夕暮れ時に
2階の窓から眺めると
我家の前の川沿いの道を ....
休日はらんぷの灯の下に
古書店街で買った
古びた本の、頁を開く
少し引っ張れば
すぐに千切れてしまいそうな
薄茶けた頁に並ぶ無数の黒字は
遠い過去から語りかける
音の無 ....
深い眠りについた時も
魂は(目)を、開いている。
いつか地上の全てが
この体が、人々が
燃え尽くされても
最果ての空に透き通り
ゆっくり開く
魂の(目)
....
初老の母ちゃんを乗せた
旅客機は
赤ちゃんを産んで間もない
姉がいる富山を目指し
羽田空港の滑走路から
大空へ
飛んでいった
定年をとうに過ぎた親父は
警備の泊まり ....
傾いた標識に凭れる
私のうつむく影が
夕暮れ色の地面に、伸びていた。
ふいに顔を上げた目線の先
小屋に並ぶ
七つの地蔵の真ん中に
ひとり
鼻は砕け、片目を開いた
風 ....
額縁に収まるその絵は
四角い顔のあぱーとの
二つの小窓が黒目のように
展示のガラスの前に立つ
私をじっと見つめます
隙間無く
{ルビ犇=ひし}めき合って
....
天性の間の悪さで
お土産のケーキを買いそびれたまま
友達の住む秩父まで着いてしまったので
仲通り商店街をきょろきょろ
見回しながら歩く
古い売店の前に
ぶら下がる
1本 ....
送迎車で
地域のお婆さんの家を訪ねたら
陽だまりの窓辺で
お婆さんは
まだ寝ていました
部屋の奥の遺影から
若き日に世を去った夫が
年老いた妻を今も見守っていました ....
皆が笑顔で集う
不思議な海の中心で
貝のこころを開いて
歓びを分け合うのも自分
ふいに人と話せなくなり
深海の暗闇で
貝のこころを固く閉じ
独りきりになっているのも自分
....
暗天の下に荒れる
大海原に背を向けて
丘の上の白いまりあ象は{ルビ俯=うつむ}いて
一人の幼子を抱いていた
長年の雨や泥に
汚れた背中を隠しもせずに
只、一人の幼子を守るこ ....
「幸福の青いベンチ」は
いつのまにか色褪せ
人々の重みに板も、折れていた。
僕はそろそろ背を向けて
新たな地平に、歩き出そう。
遠ざかるほどに小さくなる
「幸福の青いベ ....
母親に抱かれた赤児は
空に響き渡らんばかりの声をあげ
全身で泣いている
泣くことは、生きること。
だというように
ほんとうは大人になっても、
黙ったふりで、泣いている。 ....
「免許を取るには、年齢位の金がかかる」
誰かさんが言ってた通り
33歳にして33万という金を
母ちゃんは惜しげもなく貸してくれた
二俣川で筆記試験に受かり
初めて免許を手に ....
アクセル踏みすぎちゃったり
ブレーキ掛けすぎちゃったり
右に左にハンドルを
きりすぎちゃったり
( 運転は「その人」があらわれます )
誰もいない助手席 ....
遠くに浮かんだ憧れを
指を咥えて見ていても
訪れること無い幸福は
舌を出して飛んでゆく
路面に映る人影の
胸に{ルビ嵌=はま}った丸い水鏡は
誰もいない夜道を往く
独り ....
幾十年も働くということが
途方もなく長い道のりに思え
僕はひとまず荷物を降ろし
ありきたりないつもの道を外れ
目の前に広がる
今日という日の草原を
無心で走ろうと思った
....
「きず・凹みなおします」
横文字の流れる電光掲示板を
仕事帰りの夜道で通りすぎる
明日も世界中のあちらこちらで
数え切れない凹んだハートの人々が
朝陽とともに起き上がり
そ ....
わたしの心の暗闇に
張り巡らされた蜘蛛の巣は
寂しい一つの宇宙を広げ
いつも小鳥を待っている
幾羽ものはばたきは
見向きもせずに
薫りだけを残して
網の目を通り過ぎた
....
年賀状の
返事を出しに
近所を歩く
遠くに見える
赤いポストの頭に
新年の日が映り
うっすら後光が
射していた
かけがえのない人々の
名を記した年賀状を
輪ゴム ....
今日も{ルビ賑=にぎ}やかな
職場の仲間は
跡形も無く姿を消した
残業の時刻
静まり返った部屋で
ぱらぱら
書類の{ルビ頁=ページ}を{ルビ捲=めく}りつつ
手にした判 ....
日曜の床屋の順番待ちで
向かいに座る少年が
ウルトラマンの本を開いて
手強い怪獣の輪郭を指でなでる
少年の姿に重なり
うっすら姿をあらわす
30年前の幼いわたし
開い ....
最近運動不足だったので
行きも帰りも
家と駅の間を歩き
めっきり乗らなくなった自転車が
ある冬の日の玄関で
肌寒そうに置かれてた
( 今日は休みだたまには乗るか )
....
江ノ電の窓辺に{ルビ凭=もた}れ
冷たい緑茶を飲みながら
ぼうっと海を見ていた
突然下から小さい手が伸びてきて
「かんぱ〜い」
若い母の膝元から
無邪気な娘がオレンジジュー ....
わたしという
一人の凡夫は
目には見えない
風の絹糸で
見上げた夜空に星々の巡る
あの
銀河のメリーゴーランドと
繋がっている
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