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  耳のなかから歯が{ルビ一片=ひとかけ}こぼれてきた
  それを拾い洗面所に行き鏡で自分の口のなかを見ると
  欠けている歯はひとつもなかった
  歯は依然わたしの手のなかにあった
 ....
  椅子の上に
  左脳がひとつ置かれていた



  色褪せた譜面から
  いくつかの音符はこぼれ
  床のうえでひょこひょこ跳ね
  透き通った窓は、わたしたちと
  青 ....
  あいするひとよ、
  ほんとうの
  きみのその気持ちは
  とうめいな廊下になって



  蜘蛛の巣がからまったような
  きょうの丸い月にむかって
  ひたむきに伸 ....
  陰気な病院が
  頭の方から
  青空をゆっくりと降りてくる



  逆さまになったまま
  患者のひとりは今、
  あざやかなレタスを食んでいる
  桃色の看護婦がそ ....
  夜半、
  食器棚の中に
  銀色の双眸を宿した
  生温い女がはいっていて
  その白い吐息は
  ガラスの扉を曇らせていた



  他にはいっていたのは
  腐っ ....
  ねえ
  これが、
  産まれたての時間。
  そう言いながら少女が
  綿飴をひとつ、ぼくにくれた



  まぶしい屋台の{ルビ犇=ひし}めき合う
  貧しげな七月の ....
  倉庫の隅で
  ひとつの闇と
  もうひとつの闇が
  汗をかきながら踊っている



  南京錠のこじあけられる
  冷徹な音をおそれ
  かれらは時折、同時に
   ....
  少年だの少女だの初恋だの
  丸みを帯びた言葉ばかり桐箱につめて
  晴れた日の草原に座りこむキミ
  ビニールシートも敷かず、地べたに
  夕方には雨が降るって聞いてなかったかい ....
  フローリングから
  朽木のような背骨が生え
  天井を突き破ったのが
  つい先日のこと



  割れ目から
  微かにのぞく青いもの
  青空と呼ぶには
  少し ....
  いいですか
  コンクリートの塊を
  右脳の隅に沈めておくから
  ちゃんと見ていてくださいね



  そう言われたのは
  日曜日のことだったので
  ひょっとする ....
{引用= 「歯」

  数匹の
  蟻とともに
  おまえの白い歯が
  焼かれている
  雨は
  降らず
  風だけが、その
  匿名の乾きを
  旗印のようにたなびか ....
  まるでこの世の始まりから
  僕を待っていたように
  茶色い床に君の
  十二枚の写真が散らばっている
  秋の風が窓の外で
  穏やかにはためく午後
  僕はグラスに冷たい ....
  一台のテレビがゴミ棄て場で
  ずっと雨に濡れている
  その画面の
  モノクロームの砂嵐の奥に
  きみの分厚い唇がうかびあがり

   散文で語ってください、
   散 ....
  夏が来て
  巨きな足で僕を
  やさしく踏みつぶしていった
  蟻より小さく
  原子よりもっと小さく
  僕は
  ただの言葉になった



  それから南風に運ばれ
  ....
  あなたの
  からだの
  どこかにある



  おおきな
  おおきな
  おおきなうみ



  ちいさな
  ちいさな
  いまは
  ちいさなぼくだ ....
  マイナス273℃の冷凍庫に
  ぼくたちは楽園を置いてきてしまった



  昨日
  そこから一通のビデオレターが届いた
  フリーズドライされたりんごの木
  それはそ ....
  停止線を越えたぼくの感情のかたまりが
  きみの言葉で編まれたハンモックに絡め取られた
  ぼくが自分の臆病さを知る頃にはすでに
  第二の呟きが世界の水面に波紋を描く



 ....
  それは光のなかに
  夕暮れどきの街灯にある
  一〇〇円ライターの炎のなかに
  乱反射する水面にある
  やさしい気持ちが消えないように
  祈り続ける心の奥に



 ....
  金子さん
  飾りのない笑顔と言葉を
  心の部屋から追い出せないまま
  金子さん
  幼くて無様で向こう見ずな
  恋の化け物に僕を変えた



  金子さん
   ....
  夜よりも深い夜
  闇よりも暗い闇
  黒よりも黒い黒



  動き出したのは記憶
  紙袋のこすれる音がして
  ひとりの少女が立ってた



  笑いと涙を一 ....
  月が光っています
  机の向こうに窓の向こうに
  夜の上のほうに月が
  丸い月が光っています



  こんな夜に何があれば
  CDと焼酎と紙と鉛筆
  それ以外と ....
  虚しい言葉は砕けて夕暮れ
  灰色とオレンジの世界に
  丁寧に磨かれた白い月
  僕は僕で僕を歩いている
  もうすぐそこまで来てる
  君がそこまで来ている
  自分を追い ....
  始まりも終わりも
  甘く溶かしてゆく
  アルコールランプほどの温度
  喜びの果てで悲しみの底で
  君はいつまでも恋のまま



  歴史は退屈なだけ
  予言も信 ....
  君の頬を好きだった
  桃の果実に似ていた
  ほほえみを蓄えてふくらむ
  やわらかな君の頬



  君の瞳を好きだった
  ただ生きることの 驚きと喜びに
  休み ....
北大路京介さんの草野春心さんおすすめリスト(24)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
迷いこんだ歯- 草野春心自由詩914-5-25
左脳の時間- 草野春心自由詩1112-9-2
あいするひとよ- 草野春心自由詩812-8-27
病院が墜ちる- 草野春心自由詩712-8-22
生温い女- 草野春心自由詩812-7-25
綿飴- 草野春心自由詩19*12-5-20
倉庫- 草野春心自由詩10*12-5-13
Black_Tears- 草野春心自由詩10*12-4-29
背骨- 草野春心自由詩8*12-3-8
コンクリート- 草野春心自由詩8*12-2-23
草原へのコラージュ- 草野春心自由詩11*11-12-2
レンズ- 草野春心自由詩21*11-11-24
濡れたテレビ- 草野春心自由詩7*11-10-1
夏が来て- 草野春心自由詩411-6-2
くじら- 草野春心自由詩7*11-5-24
凍った楽園—Thom_Yorkeに- 草野春心自由詩1*08-10-10
つまずき- 草野春心自由詩807-12-22
かなしみについて- 草野春心自由詩807-12-19
金子さん- 草野春心自由詩207-5-11
とてもひどい雨だった- 草野春心自由詩307-5-4
月光・私・あの人- 草野春心自由詩407-4-15
待ち合わせ- 草野春心自由詩807-4-12
恋のまま- 草野春心自由詩6*07-3-19
夕陽- 草野春心自由詩406-12-16

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