濡れたテレビ
草野春心



  一台のテレビがゴミ棄て場で
  ずっと雨に濡れている
  その画面の
  モノクロームの砂嵐の奥に
  きみの分厚い唇がうかびあがり

   散文で語ってください、
   散文で語ってください、

  と言うので僕は
  言われた通りに散文で語る
  肉じゃがは好きですが、
  調理をするのは面倒です。
  部屋の掃除は端っこからやります。

   散文で語ってください、
   散文で語ってください、

  きみの唇はパペットみたいに繰り返す
  心なしか少し微笑している気もする
  けれども
  それは
  ただの唇
  いつまで待っても
  耳は映らないし鼻も出てこない

   散文で語ってください、
   散文で語ってください、

  そこで唇はふいに消え
  画面は降りしきる雨を映しはじめる
  雨を浴びたテレビが
  雨を映している

   濡れたテレビ。

  と、
  僕は言った





自由詩 濡れたテレビ Copyright 草野春心 2011-10-01 07:36:04
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