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戦中・戦後を生き抜いた
ある詩人が世を去った後
長い足跡のつらなりと
ひとすじの道の傍らに
彼が種を蒔いていった花々が開き始める
今迄の僕は
別の場所で夢を求めていたが
....
わたしの影は揺れながら
誰も知らない夜道を歩く
永遠に追いつかない
「 一人前 」に向かって
北風に震える
枯葉並木の向こうへ
携帯電話の画面を見ながら
朝の歩道をのんびり歩く
ふたりの女子高生を
追い抜く
シャッターを開いた
動物病院の女医が運ぶ
{ルビ檻 ....
わたしはいつも欠けている
あなたもいつも欠けている
欠けた互いがむきあうと
こころのさびしいすきまには
風のふしぎが吹きぬけて
別々だった
あなたとわたしは
ひとつです ....
終電前の
人もまばらなラーメン屋
少し狭いテーブルの向こうに
きゅっ と閉じた唇が
うれしそうな音をたて
幾すじもの麺をすいこむにつれ
僕のこころもすいこまれそう
....
三十過ぎて
忙しさを言い訳に
すっかり運動不足の僕は
最近腹筋をはじめた
しばらく鍛えてなかったので
体を起こすたび
床から上がってしまう両足を
しっかりと抑えてくれる ....
わたしはいつも、つつまれている。
目の前に広がる空を
覆い尽くすほどの
風に揺られる{ルビ椛=もみじ}のような
数え切れない、{ルビ掌=てのひら}に。
その手の一つは、親であり ....
畳の部屋に座る祖母が
親父と叔母を目の前に座らせ
「もしも私が世を去った後も
互いに仲良くしなさい 」
と静かに語っていた頃
仕事帰りで疲れたぼくは
霧雨の降 ....
仏のようなよい人に
ゆるせぬ人がいるのなら
わたしに誰がゆるせよう
あの人がわるい
わたしがわるい
と
手にした糸を引き合い
こんがらがる
日々の結び目
力 ....
「Le Poete」(詩人)
という名の店が姿を消した後
新装開店して「Dio」(神)
という名のピザ屋になった。
消えた、前の店と同じく
ピザ屋は毎日空席だらけ
カウ ....
嵐のあと
歩道に{ルビ棄=す}てられた
ぼろぼろなビニール傘
雲間から射す日射しに
一本だけ折れなかった
細い背骨が光る
あのような
ひとすじの {ルビ芯=しん} ....
水仙の花のように
できるかぎりの背伸びをして
星の花びらの中心に開いた
黄色い唇から
恥ずかしげもなく
むじゃきな唄を奏でたい
( 昔々
( 少年ナルシスは
( 自らの ....
夜行列車「能登号」車内
すでに電気が消えた
午前二時十五分
数えるほどの乗客は
皆 {ルビ頭=こうべ}を垂らし
それぞれの夢を見ている
一人旅に出た僕は眠れずに
開い ....
疲れた顔したあなたの前に
一杯のお茶を置く
( そこにいてほしい
( くつろいでほしい
長い間
心に固く閉じていた
{ルビ蓋=ふた}を開いて
今までそっとしまっておい ....
小雨の降る夜道を歩いていた。
ガラス張りの美容院の中で
シートに座る客の髪を切る女の
背中の肌が見える短いTシャツには
「 LOVE 」
という文字が書かれていた。
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