すべてのおすすめ
「鼻が長かった」彼女は言った
「ゾウみたいだね」僕は言った
「ううん、キリンみたいだったわ」と彼女が言うので
「首も長かったんだ」と聞くと
「歯がキリンみたいだった ....
掌は舟
温かくて何も運べない
体液を体中に満たして
今日も生きているみたいだ
塞ぎようのない穴から
時々漏らしながら
階段に座って
ラブソングを歌ったり
駅前の露店で
プラ ....
会議室を人が歩く
金属や樹脂などでできた
冷水機のようなものがあって
その向こうに浜松町が広がっている
どこまで行っても僕には体しかないのに
ポケットに突っ込んだはずの
手だけが見つ ....
夏風邪をひいた駅員が
プールの縁に立って
はしごを眺めている
咳きこむと
口の中で
戸籍は勝手に
書き直されてしまう
向こう側とあちら側が
波のように打ち寄せる
こち ....
羊とシーソー遊びをすると
いつも重い方が沈みました
両方が沈まないでいるのは
とても難しいことでした
わたしはまだ
言葉をよく知らなかったのです
+
眠れないとき ....
台所で人形を洗っていると
まだ生きた人しか洗ったことがないのに
自分の死体を洗っている気がして
かわいそうな感じがしました
列車が到着したので
あまり混んではいなかったけれど
....
遺影のある家に行くと
線香の良い匂いがして
羊羹を一口食べた
奥さんがずっと昔からのように
右手で左手を触っている
側では子どもたちがわたしの名前を知っているので
窓から外を見ると
....
鉄鉱石の蜜が街に溢れるころ
虫は人の文字の中で
急激に羽化を始める
かじると化学物質の味がして
その年はひどくうがいが流行った
水は水を乾かし
水は水を空席にする
証言台に立った女 ....
朽ち果てた石
その微かな記憶
落葉樹は閉ざされたが
薄く匂っている
末端という末端に
隙間という隙間に
うずら料理の美味しい店で
わたしは女に求婚した
手の甲の静脈は変わること ....
言葉の近くで
酸素を見ています
午後に置き忘れた椅子から
ずり落ちているあれは
靴の始まり
裏側を覗くと
もう誰もいません
+
金歯の中に広がる曇り空を
....
01
椅子に椅子が座る
約束は
決して泣かないこと
色鉛筆に魚が群がって
明日の支度をしている
02
階段は優しい
黙って骨を集めてくれるから
時計を正しく合わせ ....
アシカが来る
明日来る
手作りの案山子を抱えて
遠くはるばる
明石海峡をわたってくる
足からくる
お菓子屋とガス屋の間を
通り抜けてくる
明るい春の陽射しを浴びて
皮膚がゆっくり乾い ....
父は毎日仕事で帰りが遅く
平日は構ってもらえなかった
父は日曜日になるとキャッチボールをしたがり
僕はよく公園に連れて行かれた
普段からあまり活発な方ではなかったので
あまり楽しくはな ....
ぼくの隣
静かなきみのポケットに
たぶん幼い
春が来ている
手を入れれば
指先に形のない手触り
必要な幸福は
それで足りる
春になったら
そう言い続けて
ぼくらは今
何を ....
話す声が小さくなっていく、朝
きみは一冊の
ノートになった
軽くなった身体をめくって
話の続きを書く
これからは大切なことも
大切、とは少し違うことも
こうしなければきみに届か ....
郵便局の方から来ました
と言い残して校長先生は
ぼくの枕を盗っていった
庭ではぼくを産んで
その後育て続けた両親が
淋しい冬の作業をしている
三年前、僕の腕を
きれいな形だと褒 ....
使い古されたピアノが一台
早朝の小さな港から
出航する
ピアノの幅、奥行、高さ
しかもたないのに
言い訳をすることなく
ただ外海を目指していく
誰もが自分自身のことを語りたがる
....
オープニング
どこまでも行く
つきあたりを右折
空港がある
教師のAさん(仮称)は空港を黒板に板書していく
重要なところは赤いチョークで
重要だがそれより重要度の低いところは黄 ....
夜になると
鳥は空を飛ぶことを諦め
自らの隙間を飛ぶ
高い建物の立ち並ぶ様子が
都会、と呼ばれるように
鳥は鳥の言葉で
空を埋めていってしまう
知らないことは罪ではな ....
長いものに
巻かれている
巻かれたまま
雨にうたれている
門柱に汚れた表札
無い
と思う
年末の大掃除の
音と匂いが
街を満たす
そんなに好きなら
大掃除だけしていれば ....
男の人が白い塀に寄りかかってる
ぼんやりした格好で
衣服には模様のようなものがついている
何をしているのか聞くと
誰かの夢の中なので勝手に動くことができないんです
と言う
かわ ....
瞬きをすると虹が溢れてしまう目があるので
笑うと発音しないPを吐いてしまう口があるので
まだ誰にも褒められたことのない君が
冷蔵庫に自分の耳を並べている
僕は機関車と同じ匂いの ....
どこまでも伸びていく高層ビル
の死体が落ちていた
凶器の不完全な空が
垂直に突き刺さっていた
その空は途切れ途切れに
けれど果てしなく広がっている
という噂話を
人々はこよなく愛 ....
建物と建物の隙間に
嘘が落ちていたので
女は拾い上げると
口にはめた
口は嘘になった
嘘の口から出る言葉は
どれも本当だったが
美しすぎて
人には見分けがつかなかった
女は身 ....
手すりにつかまる
手すりのある国に生まれて
偶然とか必然とか
都合のよい言葉で
意識が今ここにある
手すりに指紋をつけた日があり
手すりの指紋を消した日がある
好んで手すりの話をしたこと ....
自転車はその肢体を空気の隅々まで伸ばし
僕らのささやかな会話は言葉を放棄して
水の海になってしまった
沖へとゆっくりこぎだして行く
すでに失ったペダルを懸命に踏みながら
陸のいたる所では ....
語らないでいると
ケニアがある
暗闇の中
愛美が物語の続きをせがんでいる
言うなれば足だ
五本指のソックスで
地表が埋め尽くされていく
人に理由などないように
人であることに
理由な ....
部長室にはいつも
風が吹いてる
日あたりのよいところで
書類の端がめくれている
窓を開けているのは
たぶん部長さんだと思う
机の上で
ピストルが少し色あせてる
微笑みながら毎日 ....
バス停の近くで生まれ
バスを見て育った
バスを見ていないときは
他のものを見て過ごした
見たいものも
見たくないものもあった
初めての乗り物もバスだった
お気に入りのポシェットを持って
....
少し大きな動物が
足元に横たわってる
景色にあるどの線にも
斜めになって
昨日からの続きのように
滑らかな呼吸をしている
その鼻先から
しばらく行ったところを
とうがらし売りの少女が
....
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