すべてのおすすめ
沈黙について書きたいと小説家は思う
即物的な生々しさでショットグラスが輝く夜
彼はそっとキーボードを叩く
一年前恋人に見放され
その二ヵ月後に右足を ....
世界にはトートロジーがあふれている
僕が孤独を選んだ日
君は化粧を点検していた
他のことは知りようもない
詩とは虚しいものだ
哀しみは ....
愛さない
好きだなんて言わない
あなたの太い指
ひとつひとつを手にとって
耳たぶの裏と
へその中に置いた口づけ
そうやって超えてゆく
....
悲しみを悲しむなよ
こんなにしずかに
寂しさを寂しがるなよ
だれもいないのに
月があって
光がある
たったひとつ
君がいて ....
未来への現実的な不安と
矮小でそれでいて強固な無知の塊
それと あの娘のスカートの中の世界が
十四の僕のすべてだった
鼻がもげるような春の異臭は
....
雨に滲んだ九月の京都が
空から町へ静かにふりそそぎ
初めての懐かしさが
消えそうな時を満たしてゆく
この匂いは何処でも同じ
この思いは今ここにだけ
雨に ....
僕の書く詩に出てくる
君という二人称は
とくに中身をもたない
かといって読む者ひとりひとりに
語りかけるような無防備さも
僕はけして持ち合わせていない
いわばそれは揺 ....
中学生の想像力は
万物を強姦している
おさまるべき枠組みを求め
有機的な快楽を知りたがり
夕暮れの廊下を絶え間なく這い回る
古惚けた水族館に
佇む ....
鈴虫が鳴いている
求め合う淋しさの塊
夜闇が僕をそっと押し包む
黄金の月が揺れている
煙のような薄い明日
きりなく君を探し続ける
....
明後日は明日の明日だから
背伸びをしたら届きそうです
明後日は明日の明日だから
僕はぴんと張られた弓のようです
期待しなければ落胆もない
でも落胆 ....
君のことを考えた
深緑に閉じた公園で
蝉時雨を頭から浴びて
僕のことを考えた
灰色と虹色の街の中
唄いながら歩きながら
僕は街に「好き」と言 ....
そして季節はめぐる
無邪気さを守り続けたまま
僕は季節にさわる
ちょっとだけ時が止まる
君がいないと心は半分
ジュースか何かを飲みたくなる
....
夜よりも深い夜
闇よりも暗い闇
黒よりも黒い黒
動き出したのは記憶
紙袋のこすれる音がして
ひとりの少女が立ってた
笑いと涙を一 ....
春に桜ほどではないが
君の長い髪に君の白い丸顔が似合いだ
いつか散ってしまう危うさは無いが
熟れてゆく愉しみがある
夏に雲ほどではないが
君の笑う ....
新しい服を買った
いつものタバコを買った
二か月分の定期券を買った
気が狂うほど普段通りの
おだやかな昨日だった
僕の部屋の中には
開けない ....
始まりも終わりも
甘く溶かしてゆく
アルコールランプほどの温度
喜びの果てで悲しみの底で
君はいつまでも恋のまま
歴史は退屈なだけ
予言も信 ....
完璧な春の下を
僕らはゆっくり歩いている
見慣れたはずの駅が今
妙によそよそしく見える
空は青くて風も澄んでいて
光もくっきり射している
でも僕の体の中 ....
思い出すためではなかった
あの日 あの時 あの場所で
明るい夏の陽を浴びたのも
あのひとの横顔に
静かでみじかい恋をしたのも
語るためではなかった ....
言いたい言葉は短いのに
伝えたい事は単純なのに
どこまでも膨らんでしまう
破裂しそうな心と身体を
布団の下に隠して暮らして
なにもかも見えなくなる ....