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唇は
春だった

柔らかくて
惨たらしかった

前髪は
夏だった

煩わしくて
あてどなかった

耳たぶは
秋だった

満ち足りて
素っ気なかった

鎖骨は
 ....
しめやかな午前 /

温まらないエンジン
背負い込んで
缶コーヒー中毒者の
重い足取り

煮え切らないナビ
ぶら下げて
揮発しそうな生活者の
白い排気ガス

走れ
せめて ....
おぼろ月夜に
醤油をかけて
チュルルと
流し込んでも
うしろめたい後味が
背筋を駆けるだけだからって

桜の散り際を
ゼリーで固めて
トゥルルと
頬張っても
安っぽい哀しみが ....
すみれ (慎み深さ)


わずかに開いた窓から忍び込んだ夕暮れが

あなたのためらいを紫色に揺らした

思わず抱き寄せようとする僕の熱を察して

あなたは微笑みながら瞳で拒ん ....
なのはな (快活)


山裾に噴き出したいくつもの黄色い掌が

緩やかな風にくすぐられて歓声をあげた

思わず駆け出しそうになる鼓動の先で

君の後ろ姿が弾みながら春になった ....
たとえば今日
寒い風に吹き晒されているとして
さらに明日は
寒い雨に凍えているかもしれない
それでも破れ傘を差して
ボトボト歩いていくだけだ

たとえば今日
温かい陽射しに抱きしめ ....
一昨日の朝食で
僕の耳に
ピーナツバターを
こびりつかせたまま
サニーレタスと一緒に
皿の隅っこに追いやったのは
誰だ

昨日の朝食で
僕の耳を
ホットミルクに
浸しこんだま ....
0.97m前方
秒速0,7m
不規則な回転運動
ほぼ(237, 26, 61)
不完全すぎる球体
強化シリコーンの指
捕捉完了

擬似眼球スコープ
サブウィンドウON
アナライ ....
<付喪神 (つくもがみ) 三体>




どこか


ここではないどこかへ
自分探しの旅に出た君が
改札口をすり抜ける頃には
自分は自宅で留守番している
ここではないどこかで
 ....
地球の地軸と同じ傾きで
ターンしよう

左手でインド洋を
撫でて

右手で北極熊を
持ち上げて

焼けた砂漠を裸足で歩くように
ステップしよう

左足で死海を
またいで
 ....
何処かが
とても歪な僕は
何処に居ても
居心地が悪い

何処かに
嵌め込まれると
何処かが痛くなる
出来損ないのピースだ

中途半端に
途中下車を
繰り返してきた
半端者 ....
東から西へ
クリークのような商店街の上を
滑空する

コンビニの角を南に曲って
コソコソとパチンコ屋へ向かう
八百屋の若旦那を左目で見ながら

西から北へ
生易しい北風を切り裂く ....
姑獲鳥 (うぶめ)


抱いてください 父を知らない不憫な子ですが
抱いてくれたら あなたに幸運が訪れます
身体が重いのは あなたの力を試すため
息が冷たいのは あなたの情を試すため
 ....
ぬっぺふほふ


脂身 から にゅるんと 手と
煮凍り から ぬらりんと 足が
新月の 夜道を ぺたりぺたり 歩いて
軒下の 薄明かりに ぐんにゃり うずくまる
こらあげん の 垂れ ....
狐火


東京タワーのライトアップのバイトは
少し怖かったけど時給の油揚は厚かった
明日は午後6時にお台場集合らしいけど
エコとか言って体よく使われてる気がする
人はあやかしなん ....
木魅 (こだま)


「好きだ」
溢れ出した想いを返せないまま
あなたは土に還り
わたしは朽ちることもできずに
「好きよ」
抱えすぎた言の葉をざわめかせながら
夜毎 すすり泣 ....
ぬらりひょん


つかみどころなんてあってたまるか
若い頃の苦労はすぐに質入れしたし
長い物は巻かれるふりして帯にした
真っ正面から当たるなんてドジは踏まない
折れない柳は風を知り尽 ....
坊主が屏風に上手に坊主の絵
を描いているところに
東京都特許許可局
の役人が訪ねて来て
裏庭には二羽庭には二羽ニワトリがいる
と教えてくれたので
青巻紙赤巻紙黄巻紙
を携えて駆けつけ ....
カトレア (優美な女性)


含み笑いの訳すら読ませてはくれずに

まろやかな眼差しで僕を押しとどめて

あなたは沈黙の端に句読点を置いた

微かな痛みを伴った午後が紫に薫っ ....
てっぽうゆり (純潔)


迷うことのない指先が夜を滑って

僕が吐いた言葉を花に変えていく

闇にも溶けないひたむきさを透かして

仄見える君の純潔が僕を温かくする

 ....
ウメ (忠実)


天神様の細道で大事な人を

繋ぎ止めようとしただけなのに

どうしていつまでも付き纏うのか

やたらと匂い過ぎる言葉達よ




スイセン ( ....
「僕」

僕が僕である認定書を落としたのは

早春のこそばゆい若葉の中

僕が君でない証明書を探していたのは

初冬の血の気の失せた枯葉の下



「君」

地方都市のヤン ....
とある快晴の昼下がり
異常乾燥のせいでもないが
うたた寝していた青い駱駝は
うっかり空から剥がれ落ちた

ここは都会のど真ん中
駱駝が降ってきたと大騒ぎ
けれども青臭いだけの駱駝
 ....
雨雲がはびこった空へ
僕のねずみ色の狡さが
こっそり飛び去っていくのを
ぼんやり見落としながら
また天気予報がはずれたと
君は唇をとがらせた

ガジュマルの葉っぱに
君の赤毛のした ....
もっと
川であれば良かった
素直に
下っていれば良かった

もっと
月であれば良かった
律儀に
満ち欠けしていれば良かった

もっと
波であれば良かった
健気に
寄せては ....
シャワーヘッドから
ほとばしる呪文で
昨日までの身体を
洗い流したら

有効期限切れの
プラシーボを
ペリエで飲み下して
街へはみ出る

手にした青が
全部フェイクだったから ....
日曜日
午前11時

3日前の新聞
細く切り裂いてる

ときどき
思い出したように
朝食の皿
トマト
ブロッコリー
の順で口に運ぶ
最下位のウィンナー
干乾びてる

 ....
日曜日の鳩尾は
相変わらずキュウンとするけれど

月曜日の洗面器には
カラ元気をなみなみ張って

火曜日の鳩時計の中で
大人しくクルッポーを演じたら

水曜日の排水口に
息も絶 ....
現実が喉につっかえた夜
時計の秒針は
時を刻まずに
僕のしょっぱい言訳と立場を
チクチクと陰縫いしている

身動きがとれなくなった僕は
掛け布団と
敷き布団の間で
暗闇と同じ色に ....
うろこ雲の尻尾につかまって
東の空へ流れ去った君は
雨雲に紛れ込んで
細やかな涙を降らせた

柔らかな時の掌に撫でられて
色鮮やかに頬を染めた君は
頼りない指先に手折られて
夕餉の ....
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