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海のきぬ擦れが耳を攫う
だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりと{ルビ宙=そら}に顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠 ....
ハシバミの枝から
膝頭をつたい
たらたらと流れる
経血の艶
頬を刺す紅の
口許を拭う銀の{ルビ絲=いと}で
ゆっくりと迷宮を搦め
鋼鉄の綾で縛りながら
血潮の徒花を捧げ
甘い毒を流し ....
桃の心臓をかちりと割ると
滴り落ちるのは
椿の深い唐紅花の唇
涙より沁みるのは
歯茎から抜けない
本心の建前
みずみずしく透き通るのは
海に砕けた夏の記憶
恋の夜に{ルビ馨=かお}るほ ....
わたし桜の花になりたい
ふたり出逢ったころ
空を埋めつくすように咲いていた
あの満開の桜の花になりたい
わたし風になりたい
いつもふたりのまわりを取り囲んでいた
あのやわらかな風になり ....
追いかけるのはいつかの夢
{ルビ揺蕩=たゆた}うのは幸福だったころの記憶
抱きしめるのはあのひとの気配
口づけるのは囁かれた愛のことば
燦燦たる陽のしたで赤く爛れるのは向日葵の花
瞬きの ....