すべてのおすすめ
私という存在を証明するものは何もありません
有るようで無い
無いようで有る
闇に明滅する蛍火のように微かなものなのです
煙草をふかし
ウイスキーを飲み干し
少しの食事で生きていることを ....
人は誰もが悲しいですね
想いを伝えたくても伝わらず
虚空に手を伸ばしても掴まらず
息をするのも煩わしくなるのです
人は誰もが孤独なものですね
独りで生まれて泣きだして
独りで亡くなり召 ....
悲しくて
苦しくて
切なくて
ポロポロ涙が{ルビ溢=こぼ}れます
心が透明になったら救われるのでしょうか
この身体が朽ちたら救われるのでしょうか
今はただ
輝く川面を眺めては
....
舞い上がれ大空高く
透きとおった風となり
自由の天地を目指して
鼓動は久遠の鐘を鳴らし
晴れやかな未来図を描こう
大空は澄み渡り
一羽の{ルビ白鳥=しらとり}が気流を捉え
深い青に溶けてゆく
帰って来いと叫んでも
真澄の彼方に飛び去った
冷えきった{ルビ水面=みなも}に鯉が跳ね
辺りの静寂を切り裂 ....
冬ざれた街
物語は化石の路となり
人々は狂った時計に戸惑い
孤独という鉄鎖に縛られ
微笑みは寒空に消えてゆく
あなたの声も届かない
初めて出会った時の切なさも
セピア色に変色した写真 ....
{ルビ繭玉=まゆだま}の中で柔らかな{ルビ生命=いのち}を見付けたよ
これでぼくは生きられる
北風の吹く枯れた野原も
雪の降る山でも大事に育ててゆこう
息を吹きかけるとホンワリ光り
手のひら ....
冷たい雨の中
{ルビ真紅=しんく}の椿が凛と咲き
冬ざれた街かどを{ルビ細=ささ}やかに飾る
一輪挿しにしたら
殺伐とした部屋も和むだろう
松本さんは珍来のチャーハンが食べたいという
それにビールが飲みたいと
毎食ペーストと栄養飲料
牛乳だけの食事を希望したのは彼の意志で
病院からの強制ではない
ぼくはレバニラが食べたくて
昼 ....
妻との決着は穏やかに着いた
様々な想い出が走馬灯のように通り過ぎてゆく
長いと言えば長く
短いと言えば短かった
二人は別々の路を選び
晩秋を待って別れることになった
互いに別々の白い路 ....
父はギャンブルと女に金を使い果たし
家に給料を入れることは殆どなかった
幾度となく踏切りの前で躊躇したことか
カンカン カンカン ゴォーッ ゴォー
母は嗚咽を押さえてぼくの手を ....
愛ってなに…
恋愛。
慈愛。
無償の愛。
自己犠牲?
愛は己を捨てる事?
愛は我が身や心を蝕む。
それでも愛したい。
愛に埋もれたがる。
愛より深 ....
松本さんは重度の統合失調症で
時々大声で叫ぶ
その後にぼくとハグをして泣く
ぼくは背中を撫で、ポンポンポンと軽く叩く
ストレスで叫んでしまうと言う
お酒がないのでぶどうジュースで乾杯もす ....
あ 愛よりも深いものは何だろう、と君は言った
い 今飛び立とうとするのは
う 生まれてきた喜びを知るためだ
え 縁というものは愛より深いかも知れない
お 大空を目指して飛んでゆけ
か 彼方に ....
生まれいずる痛みから
素肌を晒して息を吸う
重いコートを脱ぎ捨て
まっさらな心と身体で
大空の彼方に浮揚する
ヤマメやイワナは今頃どうしているのかな
釣り人の居ない冷たい水の中
安寧に暮らしているのかな
冬は餌も少なくておなかがすいていないかな
無情な魚食者の言うことではないな
美しい魚体に見惚れ
....
青い涙を流した林が風にさらされ
色褪せた枯れ葉の残り火の
漂う煙りが眼に滲みる
他の誰かに抱かれるであろうきみを後にして
俺はコートの衿を立てて往く
冷たい風が頬を掠め
{ルビ掠=かす ....
悲しいですね
苦しいですね
人は誰しもただ独り
後ろ姿を追いかけても
戻ることなどできなくて
ポツリと独り呟くことばかり
交差点ですれ違った人があの人に似ていて
ポロリと一粒涙を流し ....
朝 ミートボールコンソメ煮、キャベツとベーコン炒め
鮭ふりかけ、サトイモ味噌汁、ヤクルト
昼 サバのゆず胡椒焼き、ポトフ、春菊とにんじん和え
夕 豆腐ハンバーグオクラなめ茸あんかけ、 ....
失くしたものは多かった
しかしながら得たものも多い
互いに自由の翼で羽ばたき
大空に舞い上がり
未来の空を飛んでゆけ
悲しみ色の青空が視界を透明にする
失う物など何も無くて
白い路が真っ直ぐに延びている
風が吹き
雪が積もり
雨が降ろうとも
{ルビ止=とど}まらず
独り歩いてゆく
花を{ルビ愛 ....
空がとても悲しくて
白いベッドに横たわる
空がとても冷たくて
熱いココアをかき混ぜる
{ルビ暮色=ぼしょく}の寂しさ微かに{ルビ凍=し}みた
ベージュのカーテンで仕切られた三畳ほどの病室は
ゆったりと温かく眠りを{ルビ誘=いざな}う
母の胎内に浮かぶように
睡魔に襲われ入眠時間を間違えた
10時に薬を飲むはずが8時40分だったの ....
地下牢に閉じ込められて{ルビ幾年=いくとせ}か
サラリ サラサラ 銀の砂
凍えた肩に積もります
サラリ サラサラ 金の砂
閉ざした心を放ちます
いつの間にか手枷足枷は外れていまし ....
晴れ渡った冷たい青空のもと
中庭の木製ベンチに座り
板チョコアイスを噛っていた
銀杏の葉がつむじ風に舞いながら
ぼくを襲い
ペタペタと黄葉が身体に張り付いた
落ち葉 ....
美しい海を観たよ
寄せては返す波しぶき
{ルビ碧=あお}く{ルビ零=こぼ}れた涙色
{ルビ仄=ほの}かに白い月は頬笑み
もうお帰りと{ルビ諭=さと}された
....
松本さんは
おはよう。こんにちは。こんばんは。
精一杯振り絞るように挨拶をする
今までそれも無かったと看護師は言った
回廊でぼくの袖を引っ張り
彼は時計を差し出し
何かを聞きたいらしかった ....
空の青がとても悲しくて
黄色い銀杏の葉が飛ぶ時を待っている
中庭に降り注ぐ陽射しは眩しくて
{ルビ眼=まなこ}を閉じて五体を開き暖をとる
ときおり吹く風は透明な北の便りを運んできた
午後 ....
朝の冷たく透明な空気を吸って
土手路を歩き
川面に浮かぶ鴨を数えたら
六羽が静かに泳いでいた
鴨鍋にしたら何人前になるだろうか
などと考えながらコンビニへと向かう
紫と白い小さな菊が寒 ....
夕暮れの中庭のベンチに腰をかけ
{ルビ鋼色=はがねいろ}の空を見上げると
鳥が矢印のような隊列を組み
還るねぐらを目指して
陽の沈む方角に飛び去っていった
病棟に戻り
やがて食事のアナ ....
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