すべてのおすすめ
植物の中で夜が育つ
水の名前を呼べば
脈打つ石造りの平原
素の風が間もなく
インク瓶の縁に沿って
眠りにつく
木造の旧家屋その皮膚に
愛していた人
鉢植えだけが増えて
遺伝だ ....
あめ
ひと
設計図の無い
みずすましの痕
フロウ
触れて
薄い指先に
不在が
あるから
テレビジョン・
セットの
お笑い
本当はみんな
はぐれて
いきたい
末広通 ....
暗闇の中で働く
囁く
声と指は一定の距離が保たれている
そのために肉体がある
肉体のために空港がある
滑走路に置かれたピアノは
調律が三時の方向にずれたまま
夜明けの離陸を待っている ....
月の工場で生産された蝸牛が
地表に降り積もっている
渡り鳥の真似が得意なのに
飛ぶことができないわたしを
鳥たちは連れて行ってはくれない
夜明けとともに
蝸牛は溶けてしまう ....
草が草の記憶を語りだすと
風の結晶はふと風に溶けていく
掌で温めていた卵が消えてしまった時
わたしは初めて言葉を知った
その日の夕方
新しいベッドを買ってもらった
感謝の気持ちを伝 ....
窓の外からプラハの音がする
かつて愛していた人や物も
眠たい砂鉄のように
廃屋に降り積もっている
少し押し込むと
そこで手触りは行き止まり
肉体は肉体たちのメニューとなり
旧市街 ....
話をすればそれらは
すべて白紙になる、例えば
真冬の薄暗い水面を航行してきた
一艘の空気自転車が
小さな港に着岸する
凍てつく畑を耕す幼いままの父や
瓶の底に落ちていく身体
擦り ....
雨が降っている
雨だと思う
すべてが細くなる
無い言葉
はずれた草花
消えていく庭は
町工場のところで
途切れてしまった
ノートの中にある
わたしの罫線
罫線に隠している
....
剥がれた分度器を
落ちている人のように
並べていくみたいに
拙い息継ぎが
街の柔らかいところに
終わっていくみたいに
コンビ、ニエン、スストアで
スストアで
淡い方の手を近づけ ....
わたしは箸を置いた
箸はわたしを置いた
わたしと箸は同じ置かれたもの同士
夏休みの端に腰掛けて
初めての話をした
眠たい話をした
存在に挨拶をする
挨拶は水のように沈黙する
や ....
雨上がり、路面電車が
湿りの中で発光したまま
緩やかなカーブを破壊していく
何の変哲もない病室に
復員したばかりの真昼と青空
そこでは誰もが幸せそうに
夕食に出た鰊料理の話をしてい ....
両面テープの夏
順番が赤ちゃんの指のように
そのままの柔らかさで並ぶ
あなたは何事もなかったかのように
テープを剥し続けている
食べたい冷やし中華に置かれた
名前の無い名札
息の仕方だけ ....
部屋の中に集落ができた
小さな集落だった
本家、という男の人が話にきて
畑で採れた作物を
いくつかくれた
学校が無くて困っている
というので、近所の小中学校と
市役所の場所を教え ....
電車に乗ろうとしたら
頭の先から尾ひれの先まで
すっかり人魚になっていて
人魚は乗れません、と
電車の人に断られてしまった
取引先には遅れる旨連絡をして
しばらくホームで待つことに ....
扇風機から炭酸水が漏れている
甘い味はなにもないのに
蟻が数匹集まっている
手触りのする布で拭いて
以前から繰り返していた
冷蔵庫を開ける
三丁目がある
良く冷えた救急車が
大通りを走 ....
午前、ほんの少し
台風があった
鉛筆を削る時によくやるような
些細な手違いが続き
新しい橋の開通式は
関係者とその親戚とで
執り行われていた
濡れた草むらには
観覧車が乗り捨てられてい ....
雨の形のまま
わたしたち、地下鉄で
産道を進む
透明に敷き詰められた窓
向こう側に続く暗くて
滑らかな景色
輪郭は線となり
わたしは葉っぱを並べる
あなたは選挙の人にもらった紙が
....
壊れた室外機に腰を掛けて
春が来るのを待ってる
いくつも季節は過ぎていくのに
春だけがまだな気がする
私は雲ではないけれど
春が来たら食べたいものを思い浮かべ
その食べ物に
う ....
部屋に雲が入って
雨に濡れていく、色も形も音も
僕らはどこにも繋がらない二つの心臓
匂いもたくさん嗅いだ
かつては他の何かだったものが
また他の何かになっていく
記憶に触れれば ....
肩幅で生きる
肩に幅があって良かった
夏は草の履歴と
雲の墓場
ただいま
おかえりなさい
言葉が影になる
初めてできた影だ
子供たちに見せてあげよう
昨日いた犬にも見 ....
カメラが無くなってから
鞄が手放せなくなった
窓を開けると
春の風とともに入ってくる
都市の景色
潮風のように笑うけれど
指紋はすべて失効してしまった
鞄の中を探れば手に触れ ....
自動販売機で「夏の海」を買った
ペットボトルの海を一日中見て過ごした
水平線には夕日も沈んだ
家に帰り
何処に行っていたのか聞く妻に
海、と答えた
妻は、ウソ、と呟いた
出会った ....
墜落した紙飛行機が海に沈む
無人の自転車が男を追い越していく、と
男は置いてきた遺書の誤字に気づき
慌てて家族の待つ家へと帰る
妻は夜更けまで
サマーセーターを編んでいることだろ ....
あなたが少し、と言ったから
少し、と思った
わたしたちはどうしても
わたしたちに似たものを探してしまう
それは少し、というよりも
むしろもっと少しの、もの、こと
わたしたちの ....
木立ちを抜けていくのが
私たちの木立ち
だからすっかり抜けてしまうと
教室がある
先生は、と先生が言うと
先生は、と復唱する私たち
やがて始業のチャイムが鳴り
つまりそれは
....
万年筆の花が咲く店でホウキを買った
女性が一人で店番をしていた
ここまでいくつかの霜柱を踏んでやってきた
あの万年筆の花があれば霜柱ももう少しうまく書けたな、
と思いつつ何も言わず ....
辞書に雨が降り
やがて水溜りができた
海と間違えて
文字たちは泳いで行ってしまう
僕は代わりに
いつか拾った流れ星を挟んでおいた
柔らかいものはみな
今日は朝から倒れている
....
店員さんが運んできたコップの中に
凪いだ海があった
覗き込めば魚が泳いでいるのも見える
こんなにたくさんの海は飲めそうにない
先ほどの店員さんを呼ぼうとしたけれど
彼女なら里に帰 ....
僕に関係の無い人が笑っている
僕に関係の無い人が泣いている
僕に関係の無い人が風に揺れている
僕も少し風に揺れながら口を開けて
あの日のことを思い出そうとしている
あの日、が何のことなの ....
生き方の不器用な父がひとりヴァージンロードを駆け抜けていく
ベッドで遭難などしないように君のいびきを道しるべにする
ウソツキとキツツキの違いを述べよ、この戦争が ....
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