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聞き取りにくい小さな呟きだったが、それは明らかに残り少ないわたしの寿命を確信させるには充分な囁きだった。
娘の笑い声に眼を覚ました。今日という日が何年の何日なのか、わたしの記憶のなかでは平成の ....
その椅子はどこにあるのですか?
木製のベンチに根ざしたみたいな
ひょろ長い老人にたずねると
そら、にとぽつり言葉を置いて
眼球をぐるり、と回して黙りこむ
そら、空、いや宇宙だろうか
....
{引用=春の宵
巨人の足あとに水が溜まつてゐる。
ここからは月が近いので自転車で行かう。}
{引用=(二〇一八年四月十八日)}
昼下がり
どうにもな ....
忘れられない事を
確かめるためだけに
息継ぎを繰り返すのだろう
(葉桜は永遠に葉桜やったわ)
灰に塗れ肺は汚れて骨肉はさらされ血の流れは遠く故郷のくすんだ川面のような在り方しか出来ない ....
雨のなかの白を追い
ふたつの午後が終わってしまう
雨の後も白はひろがり
宙に音を描きつづけている
鳥が一羽
白をついばみ
描かれた音に
音をこぼす
金と ....
さいごの さくらが さよふけて
まんげつ まんまん みちている
ほおづきのような ともしびを
つなげて うたを うたいましよう
去ってしまいそうな 桜のいろを
きえてしまいそうな かおり ....
雨の日の土は重たいけれど掘るには適している。三年前にホームセンターで購入したプランタースコップで、その日もわたしは裏庭に穴を掘っていた。大した穴ではない。人間の頭蓋骨がすべて埋まるぐらいの、小さな ....
全員が死んでしまった。
アパートの住人は一人残らず死んでしまった。
昨夜、アパートに火災が発生したのだ。
近隣に延焼はなかったが、一度に燃えていっぺんに黒焦げの残骸になった。
その灰の中か ....
{引用=*筆者より――筆者が本フォーラムでの以前のアカウントで投稿した作品はかなりの数になるが、アカウントの抹消に伴ひそれら作品も消去された。細かく言ふと二〇一五年十二月から二〇一七年二月までの間に書 ....
この設問に対する解答。
ただしこれらは正答であり、また誤答でもある。
一
生きていること。
二
「将来、君は何になりたいのか?」と聞かれること。
....
金の明かりに照らされた
夜桜のトンネルのした を
屋台の光が金色だ。林檎飴をひからせている。
夜叉か、この、爪、爪を磨いて、
夜桜の香にあてられる、
この手が銀の羽になろうとしている ....
毎日が同じ事の繰り返しだから厭になるね。
と、人に何気なく言ってしまった。
ら、その人は「え?もし毎日が違う事の繰り返しだったら、私なんか一度に磨り減って擦りきれてどうにかなっちゃうよ」と言われた ....
から だった
前進しようと思えば未だできたが
から だった
寝ても覚めても
あんまりカラカラと鳴るばかりで
もう嫌気がさしちまった
(なのに夢の空はまた
淡い淡い紅に染まり
何 ....
ガラス窓の表面にはいつからともつかない埃が付着し、それにどこにも逃げていかない湿気が浸透して、古い糊のようになって不愉快なまだら模様を作り出していて、こんな小雨の降る夕刻にはなおのこと気分を暗くさ ....
口笛が足りなくなって
いつもの森へ 懐かしを浴びに行く
二度と来ないって
吐き捨てた唾は 乾ききって久しい
丸っこい姿が愛おしい
ウソ 小さな鳴き声で 哀しさの片鱗を語る
裏っかわも
....
駅から続く桜並木
だらだら坂のドン詰まり
君がいた病院があります。
桜並木の木の下には
死体と狂気が
埋まっています。
もう四年も前の想い出ひとつ
今年も桜の木の下で
散りゆく ....
満開の桜の下に集う人々は
静脈のように透き通っている
花曇りの午後に風が吹いて
柔らかい水のような眠りを誘う
穏やかに笑う彼らの腕時計は
それぞれの時刻で停止している
目的も意味もそっ ....
「家族は唐揚げ」
どこからともなく
湧いて出た
その一句
そのしゆんかんから
なにゆえか
俺の心を とらへて離さぬ
幾百万もの言葉があり
百の何乗だかの組合せがある中で
天使 ....
左曲がりだけで
目的地に着けるでしょうか
右に進行方向を変えたいなら
左を2回曲がって直進すればいい
人生もなんとかなるものだ
ぼくの朝は完結しないつめたい夜を引きずってはいない
ぼくの大腸は閉塞して夜をためこんでいたけれどもね
カーテンを引くと天使はねぼけまなこで羽ばたいている
窓からのぞくと景色のはじに満開の桜の ....
表通りの あわただしい正午に
ようやく腰をおろすと
さっきまで 見知らぬ背中が座っていたはずの
この 革張りのカウンターチェアが
ぽっかり冷たい
ーー記憶を失くした 若いピアニストのよう ....
都会に出た日は格好付けながら
踵を踏まれず歩きたかったし
一発で止まるタクシーが好きだ
車の窓に映る夜景は多分
いつか燃えなかった
花火のように明るい顔で
さよならを言うよ
飛び ....
もう一歩も進めないと悟った時
世界は私から視線を逸らした
すべての約束は灰になって
希望の抜け殻と共に風に散った
誰かがそれを自由と名付けたので
幸福の定義も裏返ってしまった
私は確かに誰 ....
移動している
動物の頭
むくんだ
羊の頭
闇から闇
食物を求め
牛の肉の
腸詰め形の
曲がりくねった道を歩き
移動する
移動する
頭の群れ
舌の肉でできた頭で
食物を求め
....
丸い小窓を抜けたなら
まぁるい形になるだろか
四角い小窓を抜けたなら
しかくい形になるだろか
まぁるくしかくくなりながら
眠る赤児のくちをぬければ
どんな形になるだろか
そこにい ....
船はいつものように鎖でつながれるだろう
青い月あかりが尖った夜の冷たさで
恋人たちを未来へと追い立てるだろう
ビルの上を飛ぶアホウドリの
啼き声がなにを求めているのか
大空を ....
金曜日の朝、イチロー引退のニュースに、
思ってもみないショックを受けた
春は毎年、鬱になる傾向・・・
人事異動のせいなので、深遠なる理由は特にない
あと、花粉と。
職場への道を、てくてく歩き ....
小学校からおとなになるまで、住んでいたのは
なにもかもが真新しい郊外の住宅地だった
白い壁、真っ直ぐな道路、ピカピカのスーパー
それ以外に何もない
それが当たり前だったから
都心から1時間半 ....
コンビニ行こうと
家を出たら
街が魔法に包まれていた
硝子という硝子を曇らせる
夜の霧
街灯が
絵本の挿絵のように
ぼんやり見える
雨でも雪でもない
寒くも暖かくもない
....
繰り返し
繰り返される夢
祖父という見た事の無いもの
二度と見る事の無いもの
無いものへの信仰
不知への限りない接近と離脱
長押(なげし)に上がった肖像の夢
不知への限りない接近と離脱 ....
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