火炎の花が空に
こたきひろし

全員が死んでしまった。
アパートの住人は一人残らず死んでしまった。

昨夜、アパートに火災が発生したのだ。
近隣に延焼はなかったが、一度に燃えていっぺんに黒焦げの残骸になった。
その灰の中から三人の遺体が発見された。
老人の夫婦と中年の独身男性が一人。人物の特定は難しい姿だった。

アパートはかなり老朽化していた貸借物件で、二階建てだが四部屋しかなかった。
それが殺風景な中にぽつんとあった。周囲には三軒だけ新築の家が建っていたが、景色を占有していたのは
畑だった
細い道が通っていて、それに沿った場所にアパートは建っていた。有るようなないような空き地がアパートの建物の前にはあったが、二三台そこに車を停めてしまうと身動きできなくなるような狭さだった。
老夫婦は二階の道路側の部屋に棲んでいた。ベランダによく洗濯物が干されていて生活の匂いがしていた。が、その斜め下に棲んでいた中年の独身男性の方はいつも窓を閉めきっていて全く生活感が見えなかった。

実を言うとそのアパートの住人である老夫婦の奥さんは私の妻の従姉妹であった。訳あって一切の交流はなくなっていたが、奥さんは私たち夫婦の縁結びの人だった。
妻の両親が他界してからその夫婦とは疎遠になっていったが、ある事をきっかけに断絶した。
とは言え、アパートの前の道は私の通勤路だった。
毎朝毎夕、車で通る度に気になってしかたない。

昨夜遅くサイレンの音に目を覚まされた。何処かで火事か、この寒い時期にと思ったが、直ぐに眠ってしまった。

私たち夫婦は似た者夫婦で人付き合いが苦手だし嫌いだった。近所の付き合いも不器用で下手だったから自治会内で浮いた存在だった。
だから、私の定年をきっかけに失業を理由にして思いきって退会した。
それから回覧は回らなくなったし、市報も届かなくなった。

地域から断絶されたのだ。
それでも私の家族は何も変わりなくて和気あいあいとしていた。
生きていくのに活きていくのに何の不自由も感じていない。
過去の震災の時も、地域の助けあいなど何もなかったのだから。

他人は信ずるに値する存在ではないよ。私は私と家族以外信じていないし守れない。
守る気持ちもないよ。

火炎とその毒々しい煙りが知人夫婦から命を奪った。かもしれない。
と言うのは
それが私の冷徹な思考から発生した妄想かもしれないからだ。

私は時々そんな妄想して、ゲームのように楽しむ悪い癖が有るのだ。


自由詩 火炎の花が空に Copyright こたきひろし 2019-04-14 11:28:40
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