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五線がある
君はそこに音符を置く
それは仄昏いどこかからやってきて
君の感覚を通過するとき
音符のかたちをとったもの
君は識っている
その音符が
鍵盤と指とを通 ....
あたりいちめん
黒曜石の闇
静寂
ひんやりとした闇を
全身で感受しながら
踊りはじめる
身体ひとつ
黒曜石の闇の中
踊っている自分の
手先足先さえ見えず
けれどその身体 ....
君はその身体に
神話と寓話とを
ありったけ詰め込んで
旅立つよりほかなかった
君が旅するほどに
君の身体の中でそれらが育つので
君はいつも張り裂けそうだ
君の身体から
抑えきれず放たれ ....
そのひとの居場所は
薄くなりつづけていた
何故だかわからないけれど
薄くなりつづけていた
だからそのひとは自分のかたちを
次々と言葉へと変えていった
言葉ならどんな薄い場所でも
息づける ....
夢の痛みが灯る街角を
回遊する銀の魚群をすり抜けながら
君は物語の解体と再構築を繰り返す
君の中で発火する思惟が
気難しくも美しいあるひとつの構造を浮かびあがらせる
時の流れの中にふと訪れる ....
真夜中の解放区にたどりついて
心はこわばっていた輪郭をほどいてゆく
すると時空はみるみる遊色化し
心の奥に隠れていたいちばん柔らかい部分と
とめどなく融け合うのだ
やがて眠りがお ....
さびしい花が咲いている
そこは天国のはずれのような場所
そこに立ち
あらためて秋という季節をふりかえる
君の白い貌
硝子細工のまばたき
うす青くたなびく記憶――
を幻の鳥のように ....
ゆるい風が吹き込む午さがりの窓辺に
詩がものうげにもたれかかって
遠い目をしている
(私のところにあらわれる詩はいつも
遠い目をしているが
この時期はとりわけ遠い目をしている)
....
それでも少しでも
陽気でいようとした君
その痛みの響きが夜を震わせている
どこかから落ちる夢を見て
怯えて目をさました君
今からでも間に合うならば
この手を差しのべさせて欲しい
....
意識の界面に皮膜を張る詩を
時々引き剥がしながら
優雅な革命に憧れつづける
蒼ざめた情緒不安定
いつもの二階への階段をのぼっていたら
いつしか階段が森になっていた
のぼってゆけばゆくほど
森が深まる
樹々が茂り
鳥の声も聞こえてくる
のぼってものぼっても
いつもの二階にはなぜかいっ ....
箱庭は壊れてしまった
誰も皆 遠くへ行ってしまった
子どもである私が 泣いている
子どもである私を 抱きしめられるのは
大人になっているはずの私だけ なのだけれど
(誰も皆 ....
私をとりかこんでいた言葉たちが
あのときを境に
いっせいに遠ざかってしまった
遠景になってしまった言葉たち
とり残された私のまわりの
がらんどう
けれど私は
おそるおそるでも
....
遊歩しよう
忘れられた花園を
青ざめた果樹園を
影色の桟橋を
空中に漂う墓標たちのあいだを
谺たちが棲む迷宮を
天使の翼のうえを
玩具箱の中を
空へと伸びつづける孤塔の尖端を
傷だら ....
そしてゆっくりと
身体から夏が剥がれ落ち
空虚するための九月がやってくる
白を纏う
夏のように
眩しさを反射するための白ではなく
とり残されるための 白
とり残されて
空虚する ....
見上げる額に北十字星から血が滴ってくる真夜中
*
少年をひとり折りたたんでポケットに入れておく
*
君がいくつもの遊星でお手玉をするから僕は眠れない
....
そのはじまりからすでに
鋭く亡びに縁取られているのが夏で
青空と陽射しがどれほどあかるくても
そのあかるささえ不穏なのが夏で
蝉が鳴き騒いでも
祭の喧噪が渦巻いても
濃密な静寂が深々と ....