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光 熱 雲の峰 蝉時雨
夏は己の輪郭が
最も融けてしまいやすい季節
多感な者ほどたやすく
{ルビ変化=へんげ}する
少年も少女も
ふと天使になったり
ふと妖魔になったりする
....
あの日僕らは
夏をいっぱいに浴びながら歩いていた
中空を惑星のようにめぐる虹色の夏の果実を
気ままにもぎとっては
かじりながら歩いていた
ふと蝉の声が途絶えたとき
目の前に幕があらわれた
....
雨に囲まれた待合室に坐っている
だいぶ長いこといる気もするし
そうでない気もする
入ってくる人もいる
出てゆく人もいる
以前もここで
待っていたことがあるような気もするし
ないような気も ....
発つ朝に
白い燕の飛ぶ夢を見た
と君は云った
そして窓辺の水栽培の
青いヒアシンスを
はじめて見るもののように見つめていた
この季節が来ると
ことに青いヒアシンスを見ると
....
空っぽの硝子の鳥籠に
早春の光が淡く虹色に差す
そうすると
わたしはうすい水色の服を着たくなる
――籠の外では生きられない
華奢ないきものだったはずなのに
でも囀りは ....