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何気ないひとときがとても大切に思える朝。
光はまだ淡くカーテン越しに差し込んでくる。
今を生きている事に幸せを感じ、与え、受け取る。
闇夜の呪いがゆったり溶けてゆくようだ。
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愛を囁くと梢が揺れた。
協奏楽の流れる部屋に人は無口で
病人の枕元に一輪の花をかざした。
今在る優しさに皆耳を澄ませた。
枯草の美に共感出来た時、私は和的な幸せを得た。
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早朝の湖を歩くのは誰だ。
湖畔の宿で耳を澄ませばそれは聞こえる。
眠れない夜を超えて我が神経を研ぎ澄ます。
苛立たしく窓を解き放つと、音の消えた足跡がくっきりと宙に浮かんでいる。
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忘れ去られた思い出を戸棚の中から取り出してじっと見つめる。
淡い色に変色したノートや書籍。
どこの国の物か分からない人形。
出し忘れた葉書。時を刻まなくなった時計。
遠い記憶 ....
暑さ厳しい夏を向こうに控えて
君と聴くモーツァルトが今日は愉しい。
無限の広がりをその音に託し、
感情の極限を曝け出した楽曲達が
この耳を刺激する。
曇天が水滴を垂らすような ....
今宵森の中の静かなアトリエでチェロを弾く君。
君は自分の色彩を確かめながら求めているのだ。
私は君の唯一の客。
私も君のチェロの音色を聴きながら自分の色彩を求めている。
私のヴィ ....
月の調べにうっとりとする今日の夜だ。
幾千幾万もの光の帯が私の窓辺にやってくる。
天上の彼女は奏でる。
今日も一日幸せな日だったと。
深紅に染まったローズヒップティーを飲みな ....
キャンバスいっぱいに塗りたくられた真っ赤な背景に
ピエロの肖像画が悲しい瞳を私に向ける。
有無を言わさぬその迫力に思わず目を背ける。
その時私はやましいのだ。
そのほとんどが ....
ロベリアの水色が私の窓辺で咲いている。
脇役に徹しているカスミソウの白い花は妻の好みだ。
陳腐な言葉など必要ない。
そこには小さな美が溢れている。
どんなに小さな表現でさえも ....
雨上がりが匂う緑の庭園で小さな世界は広がる。
ピアノの音色が淡い世界に色付く。
胸に抱えた定かでない悩みは昨日へ消えてゆく。
私はただ黙々と小さな勇気を今日という日に積み重ねた。
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銀色の翼が西の空に消えてゆく。
北鎌倉の西洋館の二階から遠く、由比ガ浜が見える。
手の平ほどの水平線に鳥たちは集い、
冬枯れの歌を歌っている。
坂道を下れば、秋が忘れていった ....
時の歩みに歩幅を合わせると見えてくる現実。
真夜中に息を潜めると聞こえてくる騒音。
眠りを妨げる得体の知れないものたち。
そろそろ今年も終わる。
新たな年には新 ....
懐かしさを覚える町並みに深いため息をつく。
明日に向き合う為のはっきりとした記憶。
永い旅路を終えるとき、
思い出すのはきっとそんなものだろう。
青空がどこまでも澄んで見える ....
何代も受け継がれたレコードプレイヤーからのノイズが心地良い。
今夜はクラシックでもジャズでもない。
忘れ去られようとしている昔のレゲエのレコードが深く響く。
今夜私は二十年前にタイム ....
風になびく黒髪があなたの横顔を隠す。
あなたは細い指で優しくその髪を撫でる。
そんな仕草が愛おしくて私は泣いた。
愛情があなたの存在そのものになった。
あなたは絵画に描かれた ....
高原の爽やかな風が私を撫ぜる。
あなたと過ごしたあの夏は過ぎ去った時の上に浮かんでいる。
ぽーん、ぽーん。
冬が来たのだ。
定宿に置いてきた古皮の手帳にはあの頃の私の言葉が並 ....
野薔薇の咲き乱れる公園で私は待っていた。
ベンチに腰掛けている私の面前を物言わぬ者達が通り過ぎてゆく。
遠い記憶を辿ると確かに私はここで待っていた。
緑に塗られたベンチの端の方、そこ ....
名も知れぬ花々が倦怠を司っている。
彼方に聳える山々が郷愁を誘う。
人間は目に見えるものを真実だと捉えがちだが、
夢の中までそれを固持することもないだろう。
夜空に浮かぶ三日 ....
天の慟哭か大地の怒りか人間が驚愕するのは決まって夜だ。
神秘の詰まった夜を私は愛する。
それはロマンに満ちた星空だけによるものではない。
何とも言えぬ甘美な恐怖とそこはかとない漂いが ....
突然の驟雨に匂い立つ森が私を呼んでいる。
どうしようもなくお前たちに会いたいがそれが出来ない。
胸苦しさが止まらない。
次に生まれてくるなら私は森になりたい。
何かに生かして ....
今日という日の終わりに君の事を想うよ。
僕の枕元に降りてきた天使。
信じるってことを忘れていたよ。
寂しさなんてどこかへ消えていったよ。
今日という日が終わろうとするその時に ....
ゆっくりいこうよ。
生き急ぐ必要なんてどこにもないんだ。
そりゃ死にたくなることもあるさ。
それでも思いとどまれたあなたは美しい。
ゆったりいこうよ。
生きすぎることも悪 ....
人工的な街で君はその才能をいかんなく発揮した。
時に夢見るように。時に現実に抗いながら。
レゲエのリズムにただその細身の体を漂わせながら。
きっとその時、神様に目をつけられたんだね。 ....
私の窓辺に晩秋の風がやってくる。
あの山の麓の村にもそれは訪れただろうか。
恋しくてたまらない。
我が半身は今どこを旅しているのだろう。
想像の翼を広げてみれば新たな地図が必要ら ....
晩秋の風は悩みをはらみながら私の窓辺にやってくる。
ああ、悩ましい。私は上手に言葉を紡げない。
限界を超えたところに真実があるのなら私はそれを見たいと願う。
私の存在に真実があるのな ....
庭の緑に紛れて自己主張する名も知れぬ花々。
鮮やかな色は私の心をわくわくさせる。
天気は良好、テラスで飲むアールグレイもまた楽しい。
部屋の奥からベートーヴェンのピアノソナタが聴こえ ....
夕暮れだろうか、明け方だろうか。
深い森の中に薄紫色の光が差している。
薄い霧のかかるどこか懐かしい空間で
いくつもの死と生命の誕生とが
上品な絹のように織り交ぜになっている。
遠くか ....
木々の隙間を縫って滑り込む木漏れ日に太陽と緑の匂いを嗅ぐ。
足元の緑はいつしか真っ白な絨毯になる。
気がつけば木々の葉も色付きはじめている。
夏は過ぎ去ったのだ。
秋を想い、 ....
あてどもなく私は私だけの絵画を求め歩いてゆく。
町を抜けると海に出る。
なぜだか私の見る海はいつも孤独に満ちている。
停泊している貨物船に群がる鳥たちの声も聞こえない。
待 ....
清らかな小川の流れに言葉は産まれ消えてゆく。
願いは祈りになりあの山の向こうへ放たれる。
初夏の訪れと共にやってくる想像を
使い古した手帳に書き留める。
白樺の林の中で虫たち ....