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 白梅の散り初めし小道に
 空が
 あの冬の頃の
 遥かな厳しさをはなれて

 泉は薄青さをとり戻し
 ふつふつと 春に向かって駆け出している

 梅の林は
 香気を溢れさせ 溺れて ....
 
 まだ日暮れには早いけど外にいると冷えるから
 おばあさんがアタシのために縁側の下に
 段ボール置いて 敷いてくれているプランケットへ
 戻ることにするわ
 
 午前中の雨で湿気った雑 ....
 あれは 昨年の秋のこと
 サバトラ猫のアタシが居候している
 竹薮と雑木林の土手の裏にある大きな家の
 離れの建物の中庭に行くと
 
 「あ、鈴ちゃん来たわ。」
 迎えてくれる おばあさ ....
 「はじめまして。」
 こんな所で、突然
 自己紹介させてもらうアタシは
 サバトラ猫よ

 「サバトラ」というと品種のように聞こえるけど
 これは毛色の名称でね、鯖に似てるからなの
  ....
 瀬田川に架かる鉄橋に軋む音
 光の帯は今を、過ぎた
 
 引っ越し祝いで友人宅を訪問した帰り
 瀬田唐橋の欄干から眺める
 そこに 拡がるものは

 時の流れすら呑み込んでしまいそうな ....
 「な、なっ、これ。あたし持って帰って
  味噌汁に入れるしラップで包んどいて!」
 友人へ手渡す 小さなまな板で半等分にした
 えのき

 玄関開けた沓脱場から上がってすぐ傍、
 ガスコ ....
 近江屋の旦那様のお部屋で
 拭き掃除を済ませた おりん
 その書斎には お嬢様のお部屋にあった金魚の
 水草浮いた陶器鉢が移されていた
 今は 黒出目金と赤い琉金が数匹泳いでいる

 お ....
 「お前さんも一端の深川の、のらねこになったじゃねえか。」

 おきぬに勝手口の木戸を開けてもらって近江屋から帰るトラの前に
 表通りの天水桶の陰から現れる 長楊枝咥えたイワシ

 「あんた ....
 「梅もさ、もう終わりよね。…。」
 裏庭で物干し竿から洗濯物を取り込みながら
 隣の表長屋の庭を眺める おゆう
 
 居室の畳の拭き上げを済ませたおりんが
 雑巾を干す手を休め
 梅の木 ....
 「ね、おりん。ね…、ねえ、もう寝たの?」

 布団の中で おゆうが
 壁の方へ顔を向けて寝ているおりんへ
 呼びかけてきた
 「起きてるわよ。」

 「ねえ、いいの?…静さんにさ、何も ....
 「今日は 良いお日和でございますな。」
 店の者に挨拶して来たのは
 落ち着いた身なりの中年の男
 店の御主人にお目に掛かりたいと申し出る

 狭い客間へ通された男は
 手にする藍染の風 ....
 「そうだったのかい。清吉さんて…たしか、縁日で逢った時
  おりんちゃんと一緒だった、あの手代さんだよね。」

 勇次は、縁日でおりんから紹介された事のある
 清吉の顔だけは知っていた
  ....
 「ねえ、勇さん、どうしたのよぉ?」
 「いや、ちょっと。…わるいね、先に行っててくれないか。」
 三味線屋の勇次が 連れ添う年増りの女の手を握り
 甘い声で答える
 「分かったわ。早くね!」 ....
 「ちょいと、八丁堀、どうしたのさ?」
 表通りにある木戸に立って
 長屋の並ぶ どぶ沿いの路地から出て来た同心へ
 声を掛ける女

 「なんでい、加代か。」
 手製と思しき旗を持って「何 ....
 「ほんとにさ、どうしちゃったんだろね?」
 手代が店を閉めると 丁稚小僧と店内清掃済ませたおゆうが
 夕飯のお膳の準備をしているおりん捕まえて話す
 「そうね。…。」
 二人は、この一ヶ月以 ....
 「おい、近江屋。お前んとこの金魚の掛け軸、えらい評判
  じゃないか。」
 店先でお客様をお見送りした主人へ同心が声を掛けてきた

 「あ、これはこれは八丁堀の旦那。はい、手前共もまったく
 ....
 「いいやッ、いやいやっ、何と!なんなんじゃ?
  気持ちわるい掛け軸ではないかっ!」
 「あなた、…ふたりの話、ほんとうだったんですね…。」

 翌日、掛け軸の吊るされる居間で
 呆気に取 ....
 「深川にはさ、ふしぎな話がたしかにあるのねえ…。」

 おりんより早く湯屋から店に戻った おゆう
 正座して部屋の隅の小さな衣装箱から
 昨日、着物の下へしまい込まれた掛け軸を
 掴み取り ....
 「変ね…窓閉まってるのに。」

 おりんの金魚が死んだ その晩のこと
 湯屋から店にかえった おりんは
 小窓のわきに吊るしてある掛け軸が 畳に
 二つ折りになっているのを掛け紐つかんで持 ....
 「こんな掛け軸さ、女中部屋に贅沢だよねぇ!」

 おゆうは小窓のわきの壁に釘を刺して
 御隠居が おりんに渡した掛け軸を吊るすと眺める
 本紙の中央には硝子ビイドロの金魚鉢一つ 
 そこに ....
 「御隠居様!若い方がお二人、お迎えでお見えになっておられますっ。」

 おりんが厨で、上部にある女中部屋へ呼びかける
 すると 床へ梯子が降りてきて
 「おや、もうそんな時間でしたかな。分か ....
 その日 近江屋の縁側で鳴っていた
 庭師の枝切り鋏は申の刻に止んだ

 お使いの出先から六ツ半にかえった清吉は
 一人遅い夕食を済ませると 土間へ降りてきて
 大きな身体を二つに折り おり ....
 夕映の 風にそよぐ
 お堀端の柳の枝は青々として
 「今夜も、蒸すのかね…。」

 低く重なった綿雲を見る
 蔦吉の 下駄の鼻緒は切れていた
 「仕方ないね。」
 下駄を脱ぐ右足

 ....
 「茶トラ猫、あの日以来…来ないわねぇ。」

 近江屋、厨の上部の隅
 かけてあった梯子を床から上げる おゆうは独りごちる

 そして 三畳の間に敷かれる煎餅布団に座って
 脇に置かれた小 ....
 「何だ、これは。」
 トラの左肩を掴むハチの目にチラッと 
 ずれた小袖の襟元から 見えた刺青
 肩から ずりッと引き下げて

 「桜吹雪の刺青とは洒落てるじゃないか。やっぱり遊び人か。」 ....
 空に 冴える下弦の月

 雑穀問屋の屋敷の裏庭
 縁側の沓脱石の傍で
 浅い眠りにつく ハチ

 ふと 嗅ぎなれない匂い
 目を覚まし 見廻すと縁の下に
 小さく動く影一つ
 「誰 ....
 空に冴える下弦の月 
 ポツン と川ぼり佇めば
 水面にこぼれる 舟宿灯り

 さっき 別れてきたばかりの
 タマの泣き顔
 浮かんで揺らぎ
 男泣きする トラ

 ガラリッ
  ....
 「近頃、米や油が大変高くなって皆困っているよのお…。」
 
 「まこと、この物価高で。俺達よりイワシの方が健康状態良いのでは
  ないかな。」
 あぐらをかく膝に丸くなっているイワシへ 
 ....
 下弦の月が冴え
 よく冷える晩のこと

 「おい、炬燵とは豪勢じゃないか!」

 浪人が、長屋の玄関の戸を開けて
 迎え入れた友だちは羨ましそうに言う
 煮炊きする へっついの傍
  ....
 「あら、この通りじゃ見かけない顔ですね。」

 近江屋の厨の隅
 水桶や たらいが置かれる陰にしゃがむ
 おきぬの頭上から覗きこむ おゆう
 
 「そうだよね。今晩の連れは、ちょいと痩せ ....
レタスさんのリリーさんおすすめリスト(176)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
春光- リリー自由詩5*24-3-5
鏡像(4)「あだっちゃん」①- リリー自由詩3*24-3-5
鏡像_(3)「秋海棠」- リリー自由詩7*24-3-3
鏡像(2)「藪の小道」- リリー自由詩6*24-3-3
鏡像(1)「橋」- リリー自由詩11+*24-3-2
Cheers_- リリー自由詩9*24-3-1
のらねこ物語_其の二十九「雪景色」- リリー自由詩6*24-2-24
のらねこ物語_其の二十八「赤提灯」- リリー自由詩4*24-2-24
のらねこ物語_其の二十七「朧月」- リリー自由詩3*24-2-23
のらねこ物語_其の二十六「御神籤」- リリー自由詩3*24-2-23
のらねこ物語_其の二十五「如月の雪」- リリー自由詩6*24-2-23
のらねこ物語_其の二十四「おりん」(二)- リリー自由詩3*24-2-22
のらねこ物語_其の二十三「おりん」(一)- リリー自由詩4*24-2-21
のらねこ物語_其の二十ニ「お煙草入」- リリー自由詩3*24-2-21
のらねこ物語_其の二十一「木彫りの虎」(ニ)- リリー自由詩4*24-2-20
のらねこ物語_其の二十「木彫りの虎」(一)- リリー自由詩3*24-2-19
のらねこ物語_其の十九「近江屋」- リリー自由詩3*24-2-19
のらねこ物語_其の十八「金魚の掛け軸」(三)- リリー自由詩3*24-2-19
のらねこ物語_其の十七「金魚の掛け軸」(二)- リリー自由詩3*24-2-18
のらねこ物語_其の十六「金魚の掛け軸」(一)- リリー自由詩3*24-2-18
のらねこ物語_其の十五「謎の御隠居」- リリー自由詩4*24-2-18
のらねこ物語_其の十四「金魚玉」(三)- リリー自由詩4*24-2-17
のらねこ物語_其の十三「金魚玉」(二)- リリー自由詩4*24-2-17
のらねこ物語_其の十二「金魚玉」(一)- リリー自由詩6*24-2-17
のらねこ物語_其の十一「男はつらいよ」(三)- リリー自由詩3*24-2-16
のらねこ物語_其の十「男はつらいよ」(ニ)- リリー自由詩4*24-2-16
のらねこ物語_其の九「男はつらいよ」(一)- リリー自由詩3*24-2-15
のらねこ物語_其の八「裏長屋」(ニ)- リリー自由詩6*24-2-15
のらねこ物語_其の七「裏長屋」(一)- リリー自由詩5*24-2-14
のらねこ物語_其の六「アワビ皿」- リリー自由詩4*24-2-13

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