便りのない君
と
頼りのない僕
の
辿れない街並
と
弛みない港町
指が鳥になり
ふたたび指になり
ふたたび鳥になる
そのくりかえしを
見つめている
眠る家々をまたぐ蟷螂
土にこぼれ 消える灯り
風が街に着せてゆく
街ではな ....
海岸には 誰もいません
本が落ちていました
文字も絵も無く
ただ幾重にも
波のかたちに濡れていました
銀河は
人々のなかに散ってしまいました
姉は最初からいません ....
昼休み、お弁当を開けると
中には凪いだ海があった
これはどうしたことだろう、
と電話をしても妻は出ない
それどころか、
海の中から聞き慣れた着信音がする
海が見たい、と言ってい ....
キリンが首を伸ばして
夜空の星を食べていた
星がなくならないように
父は星をつくった
どうしてキリンが星を食べるのか
なんて関係なかった
父はただ星をつくった
やがてキ ....
道路の真ん中に
枕が落ちていた
枕が変わると眠れない、
という性質でもないので
すっかり寝てしまった
車に轢かれる夢を見て
目が覚めると
胸の上あたりに
ミニカーが置い ....
人の背たけほどある
横長の宇宙船を縦にかかえ
横断歩道をわたり
洞窟に入った
なかには同じかたちの
巨きな宇宙船があり
底のほうにある継ぎ目を押すと
むかって左側 ....
剥がれないようにして走る
名前を失った
低い温度のままで
足元を照らす僅かな灯りを
希望と呼ぶこともなくなった
脆い身体は既に
言葉の繰り返しとなり
穏やかに壊れ ....
すろすろすろ と
言葉は融けて
羊は羊飼いに従わず
次々と夜に飛び出してゆく
目が目でしかないのなら
信じなくてもかまわない
死なないくらいに
傷つけばよい
....
埋立地から旧市街地へと
続く大通りの歩道
差し込む光に
かつて名前はあった
気の弱い人たちが
背中だけの会話
背中だけの時間
の中でうずくまり、
息継ぎし、
そし ....
夜、寝ている間に僕は
優しい形になった
とても優しい形になった
とても優しい形だったので
誰にも怒られなかった
誰も傷つけることはなかった
どうして昼間は
あん ....
わたしはけして わたしらではなかった
わたしはけして わたしらではない
わたしはけして わたしらにはならないだろう
わたしらが昔も今もこれからも
わたしひとりのこと ....
君を抱きしめる
折れそうなその細い体は
案の定
折れてしまった
添え木になるものを探しながら
僕は君の名前を呼び続ける
あなたが悪いんじゃない、と
君はできるだけの笑顔で言う ....
深夜放送が終わる
テレビを消す
ビルの谷間から
ヒグラシの鳴き声が
聞こえる日がある
そうかと思えば
砂を一粒も見かけないで
過ごす日もある
ざーっ、と
砂嵐の口真似を
ひ ....
家の隣は空港だった
何機もの大型ジェットが
毎日離発着していた
やがて、空港は遠くに移転し
跡地には都会ができた
あの空を飛ぶ飛行機には
手が届かなかったのに
今では窓から手 ....
会社の前に
クジラが打ち上げられていた
昨夜の雨の中を
泳いで来たのだろう
海に連れて行こうとしても
びくともしない
やがて専門の業者の人が来た
都会ではよくあるんですよ、
と ....
故郷の僕が糸電話で
「お元気ですか」と尋ねる
それから
口にあてていた紙コップを耳に、
耳にあてていた紙コップを口にあて直し
都会の僕が
「元気です」と答える
そんなことを
終 ....
最初から、少年も
少女もいなかった
ただ、名前すらない、
願いのようのものが二つ、
風の中で
寄り添っているだけだった
大人ってばかだね
大人ってばかだね
そんなことを
....
夜の駅、少年と少女は
ベンチに座っていた
この町を出たかった
手の中には僅かのお金
二人だけで生活するには
あまりに幼かった
それなのに小人料金では
もうどこにも行けない
....
港で生きてると
いろんなことがあるよ
と、港の猫は言った
港で生きてないと
いろんなことはないの?
と、僕は聞いた
港以外のところで生きてないから
よくわからない
と、猫 ....
ぼくの骨が溶けだして
飴玉のような
真っ白な塊になる
飴玉だよ、と
近所の子供にあげると
骨みたいな味がする
そう言って無邪気に笑う
骨の無いぼくは
ぐにゃぐにゃ ....
休日のオフィスでひとり
コピーをとってる
何度とり直しても
文字や記号は
羽をはやし逃げてしまうから
白い紙だけが高く積まれていく
明日までに終えなければ、
と思う
明日が ....
ありがとう
そんな簡単な言葉を
忘れたまま
一応の今日がある
体積は権利
表面積は義務
肉体は続く
魂の原野
そのつきあたりまで
誰に手紙を書こうか
考えているうちに
便箋はみな鳥になって
飛んで行ってしまいました
ペンを持った私だけが
窓辺の席に座り
次の遠い春を待つ人のように
外の音を聞いたりしてい ....
進化したヤカンが
群れて空を飛ぶ
どうしてだろう
せっかく産まれてきたのに
生きることと
死ぬことばかり考えてる
大通りでタクシーを拾う
そのまま
ポケットに入れる
虫たちの羽音やおしゃべりが
ゆっくりと化石になりました
枝分かれした菌糸の先端に偏西風が吹いて
地球は卵のまま午後をむかえています
今日はあまり口を開けないでくださいね
体の ....
ビーフシチューのネジが外れた
あっけなくばらばらになった
あんなに美味しかったのに
いろいろなパーツに分かれて
味もわからなくなってしまった
大切なものはいつか壊れる、なんて
....
うろおぼえの夜に
指を差し入れ
震えを聴いた
波に従い 従わぬ線
脚の動きを
讃えるまたたき
岩のはざまから
空を視る刃先
曇りと筆
曇り時計
器を ....
澄み渡った世界の気配がする
赤い朝顔を買ってきたはずなのに
青い花が咲いた月曜日
今日はたしか
君の誕生日だったと思う
1 2 3 4