新世界の酒場でおねいさんが言った
ここまで来たついでに
飛田新地の風情でも
見物していらしたら
ほろ酔い加減で振り返ったその店の看板は
女郎さんの襦袢にみえた
....
シーツは空気を切る音を響かせながら秋空にひろがった。
わたしはそれを物干し竿にかけ、
丁寧に皺を伸ばした。
子ども達は一面に広がる秋桜畑で笑い声を上げている。
家の中からはラジオの音が漏れ ....
彼とは反対方向の電車に乗って別れた。
最寄り駅で降りると残酷なほど朝だった。
光がいつもより白く見える。
わたしは歩道橋の階段を上りながら、彼のひとことひとことを思い出した。
夜の言葉 ....
ざくり、ざくり、という音で目が醒めた。
白い壁紙が窓から入る柔らかな光を映している。
わたしは朝一番の仕事を思いだし、慌てて起き上がった。
枕元には、寝る前に見なおしていた写真が散らばってい ....
毛糸の束が絨毯の上を転がり、橙色の線を引いた。
日当たりの良いマンションの一室で彼女は編み物を続けている。僕は息苦しさに耐えかねて仕事に出た。枯枝を通った光がコンクリートの上でやわらかく揺れていた。 ....
―今日のうちに降るだけ降ってしまえばいいのよ―
受話器の向こうで母が言った。相槌を打ちながら片手でガラス戸を開け、グレーの空を仰いだ。激しくはないが単調に降り続いている。家族内での大きな行事はな ....
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