風が吹いてるのではなく
人が吹いているのだ
居眠りしながら
遠いところまで吹いていくのだ
街に春が訪れたなら
それは誰かの夢のはじまりなのだ
気配を感じながら
やがて知らない街へ夢 ....
橋がかかる
四年に一度だけ同じ日に
同じ人に会う
きっと同じ思いで川を見てる
同い年なら結婚しよう
私はもう百五十六歳よ
消えていく
橋を渡りながら消えていく
そこ ....
目を失って
泣いてる
湖に
人の顔が
映ってる
雲一つない
空なのに
洞窟を見つけたら
そこで暮らそう
いつかきっと
世界のどこかで
仲間を捨てて
家族に出会えたなら
仕事柄ですから
柄でもないことは
背中に隠します
透明な
大きな翼を
持っています
鳥が眠る夜
翼だけ空を飛ぶ
よく見ると
腕も混じってる
人は夢の中で
空を飛ぶ
人が生まれる
前のことを
死んだ
とは言わない
人が生まれて
生きたから
死んだ
と言うのだ
今日も定刻通り
汽車が来る
類人猿の
波打ち際で
太陽は沈まない
沈まない太陽の
その向こうに
地平線はあった
もう帰る家が
ありません
窓が開いている
閉じる
また開いている
閉じる
人は時々
開いてしまう
記憶の窓に閉じていく
記号となった
分岐点のひとつひとつが
日付変更線を
越えていく
書き忘れた欄に
いつか名前は記されるから
鳥に名前はなくても
南の島は待っている
春は匂いなのに
雪はこの胸に ....
セーターを
頭からかぶって
泳いでいた
はるか彼方の星の
海の底から浮上する
あなたの異星人の声は
不可思議に遠い
その孤独は
宇宙の果てにある
母さんと
船に乗ったことがある
遠ざかる港を見てるうちに
母さんはいなくなって
そこにいたはずなのに
かもめが一羽止まってる
少し辺りを見まわして
ふたたび見ると
遠ざかっていく
か ....
胡麻が大好きで
ついに胡麻になってしまった
喜んでいたのもつかの間
胡麻は胡麻好きな人に
食べられてしまった
それがはたして
人だったのかどうかは
定かではない
いずれ ....
最後の雪が
また降りました
きっとこれが
最後なのでしょう
つめたいものと
あたたかいものが
まじりあう音がします
きっとそれが
はじまりなのでしょう
はじめての海
林の隙間から見える
とてつもなく高い
大きな大きな青い海
あれは空だよ
父さんと母さんは
笑ってたけど
あれこそが海だった
死ぬまで忘れない
神様がホームに立つと
いつのまにか
列車がやって来て
旅は始まる
次の駅は
あなたです
橋はもうないのに
人は渡っていくのだった
橋の向こうには
もう誰もいないのに
それでも会いにいくのだった
いつからか
橋を渡り終えると
振り向く癖があるように
夢の終わりから、ずっと
人は生きてるのかもしれなかった
最後に夢を見たのは
母さんのおなかの中で
とつぜん目を覚ましてから
人は生きてるのかもしれなかった
夢の終わりから、ずっ ....
人が空を飛んでいる
かもめがそれを見ている
見ているのは
いつも人だったのに
いつのまにか
見られる方になっている
生きるものすべてが
言葉なくそれを見ている
僕が今きれいと心で ....
空の裏側に世界がある
もうひとつの
僕らが生きた
かつての空がある
悲しんでる
そこで死んで
ここで生きてること
彼らは何も知らない
開けっ放しの
誰もいない窓の外
子 ....
息子を公園に連れていって
一緒に滑り台で遊びながら
あんな時もあったな
なんて思う日がくるんだと思う
仕事が忙しくて
一緒に遊んであげられなくて
お父さんきらい、なんて
言われた時も ....
自分ではないような
人生だった
母さんがそう言うので
じゃあ母さんの人生は
どこにあったの
と、僕が聞くと
遠くを見つめる
母さんのまなざしの先に
僕ではない僕が
母さんではない母さ ....
ホームセンターで
出会ったやかんが
思ったよりも
紳士だったので
結婚した
その時代
ホームセンターなんて
あったの
母に聞くと
母は結婚写真を
持ってきた
やかん売り ....
川の流れのすぐ後を
少し遅れて
時が流れている
もう聞こえない
あの人の声のように
過ぎてしまった時が
少しずつ遠ざかっていく
水面を割り
魚が跳ねる
私に時を返すため ....
泥酔の
おさむ君の夜が
終わらない
蹴るほどに
蹴り返してくる
視線がいたかった
故郷行きの
列車の中
人をなぐったのと
同じ手に
母の大きな
おにぎりがある
長袖の下が
少し湿ってる、朝
君は駅からの道のりを
全速力でひた走る
遅刻は毎日の景色のように
日常を誤信した
人のまなざしとして
君にそそがれた
君の背景に
いつもその人 ....
人は
二本足で歩く
不安があると
片方が立ち止まり
もう片方は
少し先で待っている
希望に向かって
息を合わせて
前へ進む
立ち止まる
その向こうにも
二本ある
....
とても深い
崖のようなところに
誰かの自動車が落ちている
よく見るとその自動車は
誰か、というよりも
僕らのものであることがわかる
君は新しく
レッカー車を手に入れた
やさしさ ....
窓にうつった空が
本当の空になって
一枚ずつ剥がれていく
窓にうつった僕の顔も
どうやら本当の
僕らしい
雲が僕を覆いつくし
悲しくなって
雨が降る
窓を開ければ星 ....
自分らしさが戻ったら
あなたはやさしく誤解した
あなたらしさが戻ったら
僕もやさしく誤解した
二人がやさしくあるのなら
誤解だって構わない
やさしさはきっと
嘘でもいい
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