工場長が腕組みをほどいた
ああ、工場長が行ってしまう、
ユキオは顔をあげた
ユキオの唇がかたくなった
工場長が胸ポケットからケイタイを取り出した
あのなあ、頼まれてくれないかな、今から割 ....
となりのカプセルのアラームに起こされたユキオは浴場にゆき湯につかり頭を洗い全身を洗い歯を磨いて髭を剃りトイレを済ませてカプセルホテルを出た
8時まえにはメーカーに着き通勤ラッシュの正門まえに立った
....
黄砂か花粉かフィルター越しに太陽が鏡のように光っていた
高速を飛ばしているとなんとなく蛇のお腹のなかをゆくような感じがした
それがシバタさんと今のじぶんの関係を思いおこさせるのだった
引き継ぎの ....
頼りにならないなあ、うちは所長さんだったから任せてた部分もあるんだよ、もうこの製品の購入はきみのところではなくてほかのルートに替える、
調達のシバタさんが再度ユキオにそう告げた
メーカーからの ....
冷遇されてたんだろ、つめたい会社だな、かわいそうに、
そんな注文いらんわ、って怒鳴られたことがあるよ、いまさら遅いよ、
所長のあとがまとしてお客様を回るのは気が滅入ることも多かった
手応えも ....
先生と夜食事でもしなさいと今朝社長から電話があったのでユキオはカタヤマを食事に誘った
カタヤマは意外に乗り気で、ぼくもきょうそうしたいなと思っていたんです、と嬉しそうな顔をした
営業車にふたりを乗 ....
3時に営業所に戻るとユキオの向かいの席に薄い黄土いろのスーツのカタヤマが座っていた
カタヤマがほんとうにどこかの国の蛇つかいのように見えた
ゆるいオールバックがターバンに見えないこともなかった
....
雨はもうやんでいるのだろうか
プリントアウトしたA4の資料をユキオは読みはじめていた
青灰いろの夕方はユキオが窓に目をやるたびに黒く染まっていった
自分の思考以外なにも聴こえなくなっていた
....
あたしたち、地球で死ねるから、しあわせだよ、
ヨシミがユキオの部屋に遊びに来ていた
2時間半かけてヨシミを迎えに行き2時間半かけてヨシミを連れて戻りユキオはヨシミの胸にたくさんの歯型をつけた
....
所長最後の日、社長がカタヤマとともに営業所にやって来た
社長はユキオの髪型を見て
おっ、こころを入れ替えてがんばってるんだなあ、
と言って顔をほころばせた
社長と所長とユキオで主要なお客様を回 ....
電車ではなく車で高松に向かった
ユキオは営業所の2階に暮らすことになり営業車を私用車として使うことが許可され実家に帰る際の高速代も会社が持ってくれるとのことだった
営業所の所長はカタヤマがはじ ....
お客様をもっと回れ、6時まで帰ってくるな、という会社の指示通り、ユキオは6時きっかりに帰社した
倉庫をぬけて2階のフロアへの階段をあがりながら、きょうはやけにタバコくせえな、その階段の雰囲気でその日 ....
春の水っぽい匂いがユキオにはなんだか他人事のようだった
グシャグシャにつぶされた空き缶が朝の風に音を立てた
ユキオはそれを視界に入れないようにして会社へと急いだ
いつもより会社の朝はそわそわ ....
きのうの満月を空に探すのを忘れていた
期末が三月なので売上のサキヨミとその検証、P/Lのシミュレーションなどでこんな時間になっていた
クルマから出ると春の夜の匂いがした
涼やかな水っぽい匂い ....
ぼくの偶然にきみがつながる
きみの必然にぼくがつながる
ねえ、だれか、教えてくれよ
行為の河ははんぶんに出来るの?
海ってほんとうに存在してるの?
こんなぼくできみを ....
いったい何人のひとを
じぶんの最前線に巻きこんでは
かれらの精神を
やわらかな灰色にしてしまったのだろう
ぼくは強い
ぼくは運がいい
ぼくは優しい
ぼくは頭が ....
市の幼稚園、小学校、中学校のこどもたちの絵が集められて
市の美術館に息子たちの絵も飾られている
息子たちにせかされて美術館に出掛けた
じぶんの成果を恥ずかしげもなくひとに披露したくな ....
たとえば小学生のころ
家族遠足でともだちの妹に
オウム小屋の金網に指をいれて見せたのは
ぼくだった
それをまねた彼女は指を失った
たとえば三年まえ
離婚も考えていな ....
女の肉が男に汚されていた
肉の汚れを女が悦ぶたび
女のたましいはより美しさを増した
肉が涙をながす
涙の尖りがひかる
男は女の苦悶を見つめた
このカラクリは迷宮だ
....
人工的な空間に
とりのこされるような
ある春のいちにち
人工的な、というのは
花曇りの空もようと
コンクリートの
水を含んだ香りのことなんだが
ある春のいちに ....
墨いろの街道
放たれた欲望は
雨上がりの夜にさえ
涙ながして飛んでゆく
飛んでゆく
好きだけじゃ
足りないみたいだ
このせつなさを
春の切実と名づけ ....
あいつはたぶん
あたしのイキ顔をコレクションしている
でもいい
あいつのためなら
あたしいくらでもエロくなりたい
乳首とクリトリスがとがって痺れて
シーツやあいつの声がふれるたび
あ ....
春に近い
夏に通うころ
なまめく
てらりと
ひかる東京
銭湯をさがして
フーガで
はしる細い直線
民家
町工場
小学校
線路
なまめく
人工のひかり
人工のひかりばかりだ
....
あのころあたし失恋したら
生き方までかえなきゃ気がすまなかった
だから名古屋で派遣してやった
カレの親友が好きだった
カレも親友も研究なかまだった
カレに結婚してって ....
ぼくらは海岸沿いのバーで飲んでいる
昼間から飲めるような身分なのは
ぼくらが考えることを仕事にしているからだ
海岸のひかりのなかに
いつもの女の子があらわれる
彼女は母親 ....
雨がつよく太く降ったら
いつのまにか晴れていた
空にはつよくて太い風が
ごうごうごう吹いていた
風土がカミングアウトし
ぼくはここにいるんだよ
たましいは同時のなか ....
社会人になりたてのころ
なぜかノートにはしりがきした言葉
会敵点に飛べ
なにが敵であったのか
具体的なことは思い出せない
具体的なことなんてなかったからこそ
そこへ ....
どこへかと向かっている
未来も生産性もない場所へ
こころやたましいを向かわせながら
家へと向かっている
社会制度とは効率と確率を追ったものだ
そこへと向かっているのだ
生殖器ではとどめを ....
今夜は約束があるからと家をでて
春の夕闇の風をきる
自転車をたいせつに停め
茶のジャンパーのポッケに両手を入れ
小料理屋にはいらんとする六十がらみの男
そんな男においらは ....
入賞で喜んだり
銅で喜んだり
勝負も結果も
一位いがい意味はないというのに
服装がどうだとか
品行がどうだとか
じぶんで選んだ政党を
すぐに応援しなくなったり ....
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