知っていますか?
あなたのいのちの中心に
たった一つの水晶が
{ルビ永遠=とわ}に光っていることを
在りし日のコルベ神父という人が
住んでいた、大浦天主堂坂下の
記念館に入り
賛美歌の聞こえてくる奥の部屋に
教え子達と共に日々を歩み
雑誌を印刷した思い出の日々の
モノクロ ....
在りし日の遠藤先生が好きだった
大浦天主堂の脇道を入り
祈念坂の石段をのぼっていたら
足元に、サンタマリアの姿のような
ましろい石が落ちていた
柔らかそうな石なので
頭と足 ....
あなたが母の胎に宿った頃
天の息吹に託された
一つの名前が
いのちの水晶に刻まれています
君の出棺に間に合わなかった僕が
斎場に辿り着き、参列者がまばらに帰り出した頃
最近遠ざかりかけていた2人の友が残っていて
互いの潤んだ瞳を見たら
互いの鎖が何故か、{ルビ解=ほど}けた ....
世間の冷たい風に押されて君は、目の前
の扉を開いた銀河の世界へ、逝ってしま
った。地上に遺された僕等は、舞台で{ルビ詩=うた}
う君の輝きを心象のネガに灼きつけて、
冷たい風に抗いな ....
猫はまことに、遊び上手である。
部屋の隅に落ちていた、萎んだ風船さえも
小突いて、追って、じゃれている
僕も日常の些細なものを見つけて、遊びたい。
布団に入った妻が
すやすやと夢を見る頃
すでに世を去った
妻の母さんの面影は
安月給の{ルビ婿=むこ}を祝福しに
何処か遠い国からやって来る
机上の花瓶に咲く
あふ ....
私の詩は、一つの庭。
暖かい陽のふりそそぐ庭に根を張る
草と木と花
土の下に張り巡らされた
地底の家へ
今日の食物を運ぶ一匹の蟻の、愛しさよ。
今・私の詩を読んでいるあ ....
身ごもった妻が慌しく、出勤していったので
休みで家に残った僕は
巻いてる暇のなかった水天宮の腹帯を
胎内と等身大の赤ちゃんの絵を包むように
ぐるぐる巻いた
紙と帯のすき間から時 ....
目の前の、自由への扉を開く
たった一つの鍵は
この掌に、置かれている。
あじさいの大きな葉っぱの上
2匹のかたつむりは
雨の中、風に揺れていました
葉っぱから眺めるあじさいは
小さいかたつむり達にとって
巨きな巨きな花でした
かたつむりの目 ....
10日前に言いあった
苦手な上司と声をかけあい
皆で円滑に
お年寄の入浴介助が出来た日
各々は言葉のボールを
互いに投げあい
各々はそれぞれに必要な
お年寄に手を差しの ....
古本の千切れた表紙の裏側に
ぴったりセロハンテープを、貼った。
最近、昔の差し歯が浮いて
すました顔で、隙間に舌をあてていた。
渡る世間を歩いていれば
どうしても出会ってし ....
「希望」という名の駅が
旅路の先に視えるから
僕等はきっと
今日の荷を背負いながらも、踏み出せる
午後の体操が始まると
もの忘れのお爺さんは
何かを思い出したように
皆の輪からむくっと立ち上がり
部屋の外へ歩き出した
つきそいながら隣を歩き
途中でソファに腰を下ろして ....
幻の建築の下で、給仕人等は白い手袋を
はめる。幻の建築は夕陽に染まり、地面
に怪しい影を伸ばす彼等が白い手袋で持
つ一つの銀盆にのるリボンを結んだ七面
鳥が焼けた黒い姿で、一声啼いた(その ....
久しぶりの実家へ歩く道の途中で
幼い頃からあったガソリンスタンドが
跡形も無い、さら地になっていた
少年時代にキャッチボールをした
友達の古い家と庭を塗り潰すように
まあたらしい ....
夜道にぽつり
焼鳥屋の赤提灯が、揺れて
暗がりの地面に映る
丸い灯りの場も、揺れて
濁った世間の暗闇で
この両肩にずっしり乗せられたものに
膝のくず折れそうな、夜
....
仕事帰りに寄るレストランで
よく頼むキャベツの千切り
日によっていつも
ドレッシングのかけ具合が違う
毎日同じように見えるとしても
目の前にあるのは
一生に一 ....
在りし日の詩人が仲間等と
文学の夢を語った赤煉瓦のCafeで
独り一篇の詩を綴るひと時
当時のマスターが
詩人へ送った葉書のコピーと
花束を捧ぐ想いを込めた詩を
重ねて
鞄に ....
こころの中に
一つの家を建てよう
どんなに激しい嵐にも
どんなに揺れる地震にも
決して消えることの無い、一つの家を
地面に膝を落とす、日も
涙の絞り落ちる、夜も
....
父親の圧迫骨折が悪化して
日々の介護の不安に
瞳を曇らせたまま
嫁さんが布団に入った深夜に
密かな寝息をたてはじめた寝顔を
そっとみつめて、心配事の全てを
癒してあげたいと思 ....
一日忙しく働いた後
たった五分でも本を読めば
のんべんだらりと過ごしつつ
一日一冊本を読むより
開いた頁の一行が輝くかもしれない
毎日なんにも悩まずに
呆けた顔をしてるより ....
古書店で偶然みつけた
昭和二十一年の「 四季 」という詩誌の
頁を開くと、誰かの髪の毛が一本
栞になって挟まれていた
「 すて椅子 」という題の詩の中で
公園に置かれたすて椅子 ....
今朝のブレックファーストで
身籠った妻は、{ルビ忙=せわ}しい{ルビ最中=さなか}に
かしゅっと一つの卵を割って
暖かいベーコンエッグを
僕の部屋まで、運んでくれた
Golde ....
額縁に収まる
向日葵の絵は
無数に{ルビ煌=きらめ}く
ひかりの種子を、{ルビ孕=はら}んでいた
頬のやつれた青年よ
いのちの歓びを高らかに
空へと歌う
向日葵の絵を、 ....
ふせていた目をふと、上げた
窓外の庭に
今年もわすれな草の花々は
空の太陽に向けて
青い小さな笑顔達を咲かせている
去年の今頃は
杖をつき、背中を曲げて
わすれな草の花々 ....
昨夜も妻は寂しがり屋な夫の手を
両手で包み
その指の温もりはすでに
この不器用な手をゆるしていた・・・
翌日、結婚してから初めて、傷心の街を歩いた。
もうだいぶ昔の春に砕け散っ ....
葬儀場では僧侶がお経を唱え
遺された息子と母親はじっと
額縁から微笑むひとに
何かを、語りかけていた
お焼香の短い列に
思いの他早く僕は腰を上げ
額縁から微笑 ....
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