生まれながらにリスクを負った
大江健三郎の息子・光君は
日々お婆ちゃんの看病をする
お母さんの誕生カードに
(つらいかた)と書いた
(つらいかた)とは何だろう?
老いたお婆 ....
安っぽい微笑みは、もういらない。
ほんとうは自然な笑みを浮かべる
{ルビ案山子=かかし}になって突っ立っていたいものだが
この世には、隙を伺う者があり
調子に乗ってる奴があり ....
生きていれば、時折
苦い薬を飲むような一日がある
目の前を覆う{ルビ靄=もや}のような
掴みどころの無い敵が
心の鏡に映っている
靄の向こうのまっさらな
日々の舞台は、 ....
コンビニの銀行にカードを入れたら
先月よりも数日早く、今月の給料が入っていた
新たな職場に移っても
相変わらずの安月給ではあるが
ATMの画面に増えた金額を見た時
今迄とは違う ....
心に棘の刺さった時は
真綿のように包んで
黙って何処かへ流れゆく
雲の旅人になろう
あの空から地上を見れば
大きな荷物を背負った人も
小さい蟻に見えるだろう
あの空 ....
朝の浜辺を散歩する
夏休みの終わりに
金髪の青年が2人、遊び疲れて
またを開いてぐっすり寝ていた
ある意味遊ぶということは
若人の仕事でもあり
大人と言われる{ルビ年齢 ....
世界を征服した、孤独な高い塔の上から
広い地上を見下ろすより
たった数人で集う、ひとつの場所を
素朴な{ルビ日向=ひなた}でみたしたい
「私は正しい人である」
と胸を張るより ....
そろそろ(忘れるコツ)を身につけたい僕は
凹んでしまいそうな夜にこそ
「Today is anotherday」と言ってみる
自分の落度に指をさされて
眉をしかめそうな時にこそ
....
あの日、少年が追いかけて
精一杯伸ばした、グローブの先に
白いボールは、転がった―――
夢中で土の上に飛びこむ少年の姿が
大人になったこの胸を
無性に揺さぶるのは、何故だろう? ....
自然の水はあふれんばかりに、今日も
泉に湧き、滝から落ち、川を流れ
{ルビ人間=ひと}の哀しみさえも
自然に湧き出ずる水の如く
美しい涙の{ルビ滴=しずく}は
君の瞳から、 ....
今日の入浴介助は
全身をばねにしてバリバリ働くAさんと
一人すろーに働く僕のペアで
一人のお年寄を介助する間に
Aさんは三人位してそうで
天井あたりから
数時間の動きを見ると ....
道に信号があるように
私達の日常の旅にも、信号がある
「赤」で立ち止まる時があり
「黄」で慎重になる時があり
「青」で迷わずゆく時があり
ゆずること、待つこと
走り出す ....
出産後の妻とゆっくり過ごす為
休みをもらった日の午後
テレビをつけたら
決選投票で選ばれた
次期の首相が熱く語っていた
「政治というのは、坂道を皆で押す雪ダルマ。
あいつ ....
新しい職場の老人ホームで
初めて司会のマイクを持った日
お年寄りの皆さんに
塗り絵用の色鉛筆を渡した
十二色の鉛筆の先っぽは
どれもきれいに尖っていたので
今日は鉛筆削りの ....
ありきたりの日常に頬杖をつく人が
目玉を丸めて、飛びあがる
手造りのびっくり箱を
日々の暮らしに、仕掛けよう
目の前の何でもない風景は
独りの画家が絵筆を手に取れば
真っ白なキャンバスにあらわれる
一枚の美しい夢になる
たとえばそれは
{ルビ陽炎=かげろう}揺らめく夏の坂道を
杖を ....
ゴッホが描いた「{ルビ向日葵=ひまわり}」の
地上に堕ちた太陽に
人は感動するのではない
今にも動き出しそうな
何かを語りかけそうな
「向日葵」の背後に視えるのは
瞳の ....
久しぶりに実家でゆっくり過ごし
今は亡き祖母の和室に坐り
夕暮れの{ルビ蜩=ひぐらし}の音を聴いている
掛け軸には富山の姪っ子の
書き初め「広いうみ」が
悠々とクーラーの風に揺 ....
夢の中に美人女優が現れたので
ふら〜りと吸い寄せられていったら
ぱっと姿が消えて、目が覚めた。
隣には、妻が小さい{ルビ鼾=いびき}をかいていた。
起き上がって、ソファに腰を ....
幕開け前の誰もいない舞台に
一つの卵が置かれている
(あの中に、瞳を閉じた胎児の私がいる)
ぴしっと殻を破り
世界に顔を出す瞬間を夢見て
(胎児の小さい心臓が、高鳴っ ....
繰り返される日々の只中で
長い間{ルビ蹲=うずくま}っていた私は立ち上がり
澱みきった自分の姿に
力一杯ひとつの拳を、振り下ろす。
言葉にならない叫びが
青い空の鏡を、震わせる ....
一日の仕事を終えて家に帰り
コンセントの穴から
線をつないで
充電器に、電話を置く
旅先の長崎で出逢った
お爺さんがくれたマリアのメダイを
両手に包み瞳を閉じて
僕はソ ....
デイサービスに初出勤の日
助手で乗った送迎車の窓外に
前の職場の老人ホームを去る時
手を握りあったお婆さんが散歩道で
杖をつき、せっせと坂を上っていた
( 僕も、新たな日々の坂 ....
「人生は、まさかという名の坂がある」
ある日、同僚は言った。
愛する{ルビ女=ひと}と結ばれた僕は
30年住んだ実家を出て
12年詩を朗読していた店が閉まり
10年働いた職場か ....
再び僕等は、ヴェールが落ちるのを見る。
いつも目にする当たり前の風景達が囁き始める。
新しい星空が僕等をさし招き
魂は更なる旅路を、歩むだろう
世界は僕等のまわりで
新しいサー ....
炎天下を汗だくで歩いて
デパートに入ったら
ひんやりとして、幸せだった
しばらく涼んでTシャツの腕が寒くなり
外へ出たら
暖かくって、幸せだった
人の幸せなんぞというも ....
少年の頃
食物をせっせと運ぶ蟻さんを
踏んでしまい
何故か無性に、胸が痛んだ
大人になった今
嫁さんは家の中で虫をみつけると
つまんで窓外へ逃がすので
僕も見習い、ある ....
降りしきる、夜の雨に身を濡らし
{ルビ蝸牛=かたつむり}は真横になって
塀に、張りついていた
通りすがりの僕は
(君は退屈そうだなぁ・・・)
と思ったが
ちょっと待て ....
いつかまっすぐな塔を建てる日の為に
目の前に、一つの石を置いてみる
一日という空白の舞台に
せめて、身の丈程の石を積み上げよう
一日々々、飾らぬ私であるように
百日、等身大の塔 ....
初めて飛行機に乗ったあの夜
浮かび上がる機内の窓から眺めた
地上に{ルビ煌=きらめ}く星々
僕はしばらく、忘れていた
あんなにも
不思議な場所にいたことを
標高3500 ....
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