鍵がない
財布もない
めがねはどこかな
ひたいの上だ
屋根がない
伴侶とはなに
価値観ということばに空まわり
焦ってなくしてばかりだよ
知らないものは伝えようがない
感じないもの ....
正倉院宝庫がその所蔵品をま近に準備してくれた古美術研究旅行中
奈良の夜、作家の訃報を速報され飲みに出た
歴史にも詳しかった彼が奈良の巨刹群にどう想いを抱いたか、作品に伺えないことは却ってひとつの意 ....
したげたい
あなたが笑顔になれるよに
したげたい
あなたがしてほしいこと
したげたい
お花にみずまき
お犬のさんぽ
したげたい
はれの日に
あめの日も
したげたい
こごえる手 ....
きれえな音やわぁ
おさない少女のさえずりは
三宮のゆるやかな賑わいにうかびあがると
セカンドバイオリンにぴったりより添う
きれえな体育座りだった
路上がいちばん好きだ
秘密警察におい立てら ....
はてしない水に
あらわれた沖という感じ
子どもらが
ゆびでつくったさんかくを
ひろげるとみち
こえにだすと
胸にひびくはてしなさ
どこまでもつづくうねりへは
近づきすぎてはいけない ....
酒場散景
いらっしゃいませ今晩は
お久しぶりです
おかげ様にして疫病さま様ですよ
重畳なこと、わたしは今度出稼ぎます
それはそれは身売れましたか
先日一枚、なんちゃってキュビズム ....
すずめがならぶ電線に
からまる凧を
むかえにゆく篭で
あなたが目ざめる
冬の町
波がよせてきて
泡がはい寄る
沈下橋
壁ごしの沈黙をやぶる
ひとつのくしゃみ
朝日をあびて
落 ....
拝啓
菌くん
そして菌ちゃん
どうぞ聴いてやって下さい
この軽自動車なみの心臓は
今日も元気よくおやすみと
疲れきったおはようのメロディーで
生きる、とうたうピン・ボール
....
それはいっぽんの小径
なみのかたちで振れ
丘のすきまをぬう
夢のはじまり
一日のおわり
ひとは その間
ひとみをみがくいちまいの布として
ぼんやりとてる 初月
あなたの中で
まっ ....
おやすみと
夜のくち笛がすると
踏み切りを塞ぐ貨車の列
恐ろしいソナタのはつ夢
おやすみ
自動扉の前で
なみだを拭いている誰かと手をあわせ
真呼吸しておやすみ
削岩機とゆっくり再起 ....
今日は川はにごりなく
深く沈めた自転車がよく見える
ついついと音を立て
外資系お洒落喫茶店の紙袋は
町角で丁度よく破れ
仔猫のようにこまかに震えてた
わたしの胸にうまれやまぬ
美肉の缶づ ....
媼の面をはずしたかまきりが
つめたいそでで横になっていた
ゆたかなお腹
子どもらをまだ泡してないと見え
わたしの中ゆびを、きゅっと
思いがけない強さでつかむ
空をひらけばすみれ
あし ....
まぼろし
まるい
地球の影におおわれ
冬を
むかえた空から
宇宙がよく見えた
黒い雲のすき間から
着陸灯をかかえた旅客機が
旋回しながら
渡り鳥を
一羽
また一 ....
凪の果ての
遠浅のアデンに垂れていた
ことばの鈎をゆわえた
誰かの想いの糸
深海の流れはつめたく速い
願望がのびきって
次つぎ崩れる
砂浜にうち上がることばたち
鮫の群れがねむるまで
....
ことば
にんげん
とか
やさしさ
とか
ほほえみ
などなどたくさん
わたしが好きなことばたちがあるが
その印象はけっしてたくましいものではない
大抵いつもかたかたふるえていて
....
一
写真におさまる声はないのに
いつまでも聴こえてくる
花がひらく唄
雲がきえる叫び
沖にとどろく神なり
それから、あなたの唇のネガ
どれもいまは違うものになって
どこ ....
ぬかるみが町から消えて
霜柱はどこか淋しげ
いつも踏み抜いてゆく少年が
空を見ていた
今夜はクリスマスだから
指をかざし町の灯を消して
星をわたる橇いっぱいの贈り物
ひとつは木星
....
そこは誰もいない屋上遊園
雪が一面にふり積もっていた
たくさんのものが丸められ
つめたくひかって
おおいかくされた心音が
ふたつの距離をおしはかる
けっして届かないとわかるまで
降り ....
高くて、広くて、硬くて
人工美にかこまれ
あなたがつかむもの
さめない夢
甘くて、柔くて、叫ばない
つるされた肉片
あなたがかむもの
人工の夜
空へと指をひろげる
人もまたひ ....
はなび
いき残って欲しかった
近所のわたしの野良犬たち
いつも 連れさられていった
空 そら、闇をてらす
町のあかりをするするすべり落ちてきた
きらきら ほら、海の向こう
火の ....
よろこびの丘に ひとり立ち
白を愛し 白とだきあい
とまどう 感情を
火にくべ ひそかに確かめる
いつわりで濡れた 岩棚で
青を愛し 青にくちづけ
砂浜に 見あげる
秘密のない ひろ ....
この机のちらばりの どこかに
あいつが棲んでいる 潜んでいる
ほそい指で 引っかいている
なつかしい暗がりに あぐらかいて
澄んだひとみで 夜を 夜を
夜を待っている 寝がえる私に
ぶ ....
猫。いのちのぬすびと。天秤をゆらす。無邪
気な狩人。爪をひそめ。音をひそめ。夜走す
る獣。ちいさくて幸い
蜘蛛。お寺のお裏に住むおとな。かわいた唇
で咬む。純真で多淫。空洞をゆるさぬ観測手。
....
隕石 お前は 無思想
ゲバ棒 お前も 無思想
漏斗孔から 流血 どうして
投擲 された 砲丸の驚き
解体中 の公園 が見た 夢
不幸せ な 女の子が
科学する
幸せそう な 男 ....
風が吹いていた
千本の針を手ひどくかき回すような
天蓋の裂け目から吹きこんで
ざらざらはしる
風が吹いていた
あたらしいところに今朝もある窓に
ゆっくり手をふるお月さま
澄んだ金星も ....
ひとつ
*
ついさっきまで雪だったよ
どうだった、雲から離れる気分
寒かった
雪なのに
めちゃくちゃ寒いよ
覚えているの?
ううん。でもわかる。はなれた瞬間、 ....
雨
今夜わたしが
この傘にひらく雨を
きのう聞いた人
そこには星が見えますか
不安定な蛍光灯のように
意識がちぎれそうな夜
清潔な循環につつまれる人
ふくらむ海を感じますか
....
やわらかく包む結び目のすき間から
ほんのりと匂いくるりんごのまるみ
そんなことば
太陽を溶かした夜を柄杓からグラス
唇から四肢へと移す食卓の綺羅
そんなことば
まな板を叩く音
単 ....
ことばが狩りと育児を済ませたので内側を向いた
から/わたし達は膨らみはじめて以来ずっと骨が
鳴りっぱなし犬も駆けっぱなし毛玉は転がりっぱ
なし/穴があればやさしく覗き/幹があればひと
まず揺す ....
ふぞろいな孔をのぞくと
公園の陽ざしと歌のたまごでいっぱいで
はやく息をふきこんでとせがむ
柵のむこうでくちばしを打つ烏も
まだかいまだかいと鳴いている
あまい唾液もながした
冬の空に ....
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