昔、橋を通った。
日が沈み、空の淵は、青みがかっていた。
女子高生が自転車で脇を通り過ぎる。
車のヘッドライトが、
彼女のこぐ、自転車の、ペダルの反射板を照らした。
銀色に輝く、 ....
東北は雨です。
夕方、歩道橋の上で東京へ帰りたいと話す女子高生。彼女の家は勾当台公園の近く。隣りを歩く子が、あんたんち、東京なの?と笑う。そうそう、と彼女は答えた。東京から毎日、新幹線で通っ ....
蚕は逃げ出すことが出来ない。中国で家畜化され、野生に還る能力を持たない。幼虫から蛹となり成虫になる。体内には細胞死がプログラムされている。生きるために、死ななければならない。
成虫となった蚕は交 ....
山形県南陽市の赤湯では「雪迎え」と言われる現象がある。晩秋の小春日和に良く見られるらしく、それがあらわれると間もなく雪が降り始める。
「雪迎え」は細い糸が空に漂う現象のことを指している。長い間、 ....
お酒を飲んだ帰り道、女性が声をかけてきた。彼女はガールズバーの客引きだった。アルコールで火照った体でも、寒い夜だった。乾いた風が、冷たい空気を体にたたきつける。大通りを走る車の列が、街を歩く人の群れ ....
雨が降った後、
コンビニの自動ドアが開いて、
押し寄せる、空。
湿気が、国道1号線の、
キャッチセールスの波、
信号機の赤、
吐き出した溜息で、
留めていた物が、
排水溝に流れた。 ....
西の空、山の先がわずかに明かりを残している。周囲のビルの明かりは灯されていた。西の空が青と言えなくもない色から、闇に変わる。エレベーターホールから覗く外の空はすでに夜だった。自動ドアの前まで歩く。ド ....
雨の音が聞こえている。
昔、聞いていた曲が流れている。
いつの間にか、父親になった。
一日が短いのに、一年がすぐに過ぎてしまう。
青い空はやってこない。
明日は、遊びに行くんだ。
曇り空で ....
仕事が遅くなった。金曜日の夜の電車は酒臭かった。渋谷始発の電車に乗り、席に座った。いつもならすぐに眠りに落ちるのだが、あまりに瞼が重くて眠れなかった。目をこすっても瞼の重みは消えない。隣に座った大柄 ....
長い間音楽を聴かないようにしていた。朝、満員電車に揺られ、つり革に手のひらを乗せ、片手で本を読んでいる。誰の声も聞こえない。電車の走る音が体中に響いている。車内にアナウンスが流れる。次の停車駅を告げ ....
突如として現れては消えていく、
それぞれの視線の残光が、
1億年後の地球の夕闇に、微かな光となっているとしたなら、
全盛を迎えた恐竜の視線が
今、日没したばかりの、空の
際を、闇に混ざるよう ....
走れ。
翳りの中、狭い光が照らすアスファルトの上を。
夜明けとともに訪れる、日没の予感を。
その林、海の花びら、霧を抜けて。
冷たい風。乾いた空気。日向だけを暖める太陽。坂を上る。陸上競技場が見える。後ろを振り向けば、町が一望できるだろう。その奥に微かに海の青い色がぼやけながら移っているはずだ。
風が正面から吹く。前へ ....
夜明け。夜明け前。真夜中。
真っ暗な夜。エンジンが切られる。
歩道橋の上、電灯はぼやけている。
でも光っている。霧雨。雨が細切れにされて、漂っている。
飛んでいる矢は止まっている。
....
歩道橋の上に立つと、思い出すことが二つある。そのうちの一つは小学生の頃の思い出で、残りの一つは上京してからのことだ。生まれた場所には、歩道橋が一つしかなかった。その歩道橋には唯一の信号機が付いていた ....
歩道橋が夜を迎える。
道の基点から、夕雲は暗雲へと変わる。
歩道橋は震えていた。
頑なな心に、歩道橋の震えは伝わる。
望遠郷の果て、山、川、光
乗り回す男の姿は、橋を越えたならなくなってしまう。
写真つきの、身分証の、提示を、強要された橋の下
認め損ねたのは魚。飛ぶ、鳴く。
後部座席、男は身を深く椅子に沈めて ....
遠くに住んでいる友人から手紙を貰った。もうずっと会っていない。就職したばかりの頃からなので、もう5年以上は過ぎているだろう。
手紙には1枚のCDが付いていた。”ハイパーサマーミュージック”CDケ ....
軽やかなリズムで、口ずさむ。
彼女はHush HAPPY!
草原から伝えられた、世界の中心で叫ぶ声、ブレーメンの音楽隊。
驢馬、犬、猫、鶏達は、スイッチバック方式。
ブレーメンなんて夢は見なか ....
何週間ぶりだろう。夜、走りに出かけた。
走り出して直ぐに気がついた。季節が変わった、と。アップダウンの多い住宅地の間、短い間隔で等しく並んだ蛍光灯の光が緑色を帯びているように見える。敷地に植えら ....
夜、雲がかかっているが、月は見えている。
けれど、星は見えない。
それは、晴れている日でも同じこと。
どこかに位置し、どこかに向かっている。
定まらない場所、正面。
真下を太陽が通過して ....
友人の結婚式で訪れた故郷。山が四方を囲んでいる。幾多の虫の音が聞こえる。駅のホームには人の姿が疎らだった。日焼けをした高校生の男女。運動部の学生だろう。大きなボストンバックに汗をふくためのタオルが、 ....
高校時代、陸上部だった。毎日、飽きもせずに走っていた。一日中走り、土埃にまみれた。日が暮れ、顧問の集合がかかる。僕らはダートコースのようなグラウンドから一斉に走って集まる。
練習が終わり、グラウ ....
暑い日の地下街、
ジャケットまで着込んだ、汗だらけの中年男性が
足音を立てている。
無数の出口に続く階段を通り過ぎて、
額の汗をぬぐい、隣の同僚に話しかける。
その足音は軽やかで、無 ....
ランドセルを背負った少年は気がついていた。
長距離走者の後ろには必ず、
テレビ中継車がいるものだと。
どこかの遠い悲劇は、誰かが
後ろから写真を撮っている。
だって、教科書には戦争の写真 ....
声をかけた男の肌着は、破れて黒ずんでいる。
手に持ったビニール袋には、アルミ缶がぎっしりと詰まっている。
やあ、おはよう、と男が声をかけると、
湿度の少ない土地の、よく晴れた空は、
やあ、 ....
世界滅亡のカウントダウンに震える最中、地区に一つだけの信号機を無視して、交差点を自転車で横切っていった。空には飛行機もヘリコプターもミサイルも飛んでいなかった。湿度の高い空は、青空の下に、薄い水蒸気 ....
そろそろ、車は宙に浮いているだろうか、と問いかけられたとしたら、
答えは、いいえ、だ。
かといって、その問いに答えてはならない。
答えは大抵のものを不純にしてしまう。
殺戮者のナイフ。約束 ....
川辺でハエが飛んでいた。
片手を大きく振る。ハエを叩き落そうとした。
ハエは、風に反応しているのだろうか、襲い来る手の平の攻撃をかいくぐり、水面に着水しては、宙へ浮かび上がり、と上下の移動を ....
川に落ちた。
ゴルフ場は光を放ち、点を消した。この世から、
あの世まで。それでも闇は、この世からあの世までを溶け合わせる。
触れる、ゴルフ場の光。
飛んでこない、ゴルフボール。
びゅん、びゅ ....
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