朝に聞いた曲
心の目が柔らかく開く

見落としていたもの
忘れていたこと

目玉焼きのカタチに
母が

洗濯したハンカチの色に
父が

リキッドの眉墨には


私の ....
師走の候
医院の待合室
暖房を入れ始めてから日が経つ

ブラインドの向こう
夏からの工事は、まだ終わらない

受診後の患者様たち
次の予約は年明けが多い

帰り際に掛けられる言 ....
買ってから
どれくらい経つだろう
黒色の電気ケトル

購入時は白が欲しかった
でも、在庫がなくて
この、いかつい黒を選んだ

最近は、沈黙することが多い
スイッチを押しても応えない
 ....
娘と話した夜
相談にのっているうち
白熱し過ぎた

彼女の心を
置き去りにしたことを
謝罪する

彼女は私ではない
私の轍を踏むと
見当違いも甚だしい

それがきっかけ──
 ....
散歩の帰り道

ガス会社のフェンスに
ひとさし指先ほどの
緑のサナギ
アゲハの類か

細い指先で畳まれた
葉っぱのようで、
その美しさを観察する

雨風を凌げるものなど
周りに ....
赤信号
ここの信号は
変わるまで長い

運転席から見やる舗道は
眩しいくらい明るい

紅葉した連なる木々が
夕日に照らされて輝く

ひらひら 
赤、黄、茶の葉が
人々の上を舞う ....
私が髪を切るとき

羊羹を包丁で
切るみたいであってほしい

髪型を変えても
大抵、夫は気づかない
それでいい
なぜか
それがいい

髪を切るのは
飽き性の私の
ささやか ....
すこし悲しみのある朝

昨夜に知ったこと

少し期待していたこと

そんな想いはもう無いと思っていたけれど

朝目覚めて

胸にじわじわと広がる

少し滞る朝ごはんの支度
 ....
彼女の好奇心と
私の虚しさを埋める
壮大な作り話

姫君の瞬き
傅く水晶の城
裏切りと慟哭
見知らぬ仲間は
命分けあう行く末

白いシーツの部屋は
異国の砂漠に変わり
闘い倒れ ....
「こたつは麻薬や」

あなたは そう呟いて
こたつから抜け出した
まるで逃げだすように

不覚にも長い昼寝に陥り
試験勉強を邪魔された──
あなたの言い様
こたつに悪気はないのに ....
冬は 
つま先からやってくる

朝の換気のあと
畳を踏みしめると

つま先に
じわっと
寒さが滲む

つっかけを履いて
ゴミ出しに出れば

つま先に
冬を感じる

お布 ....
昨年の冬 
ついにグランドフィナーレを迎えた

一年半訪れず
そして再びの来訪に驚き
慌てふためき病院にまで行く

「そういうこともありますよ」

お医者様の言葉に安堵した
確 ....
今夜も その笑顔に癒されている
カウンターで
コースターを弄りながら話す

目の前のグラスは
緑の照明にぼやけて滲んでいる

近すぎる席に感じるのは
貴方が大柄だからでしょうか
 ....
夢は記憶の足跡とも聞く

舟に揺られ、震えて叫んでいた

夕暮れよ 
あなたは気まぐれで
私を弄んだまま、夜ヘ送った

夜よ 
あなたは私をその底に沈め
耳を塞ぎ、目を覆わせた ....
今日は結婚記念日

親友の誕生日と一日違い
いつも、どっちか分からなくなる

親友の誕生日を思い出してから
結婚記念日を思い出す

おそらく 夫の方は完全に忘れている

試しに ....
「もう、寝てしまうん?」

酔った頭の横で 
やさしく囁く声がする

──その声が好きなんだな

突っ伏したまま
好い心地で聞いている

時折ぐるぐる回るので
それを止める為 ....
食べても食べても減りません
いつかは無くなるのは
わかっていますけれど


みかんの季節です
待ち焦がれた季節がやってきました

大きなバケツに山盛り
有田みかん 四百円 
「 ....
仕事をしくじった

あれだけ丁寧にやっていたのに
しくじった
心苦しさが胸を重くする

このオモリを抱えるのは
なかなか無いことなので
自分を観察することにした



当日  ....
窓の外には
まだ黄緑のイチョウ
西日に照らされて キラキラ光る

その光を受け
陰影をまとい輝く
窓辺に並べられた白い陶器たち

ほとんど目が見えなくても
こんな繊細な作品を生み ....
久しぶりの神戸
妹と二人で往く

生田神社は朝から多くの参拝者
ほっそり引き締まった狛犬を眺め
お詣りしてから坂を上る

異人館通りを右に曲がって
ハンター坂を横切り
賑わう北野 ....
生まれて初めて見た
こんなにも沢山のチマチョゴリ

京都で暮らしていた頃
頼まれ仕事で
結婚式場へお弁当を届けにゆく

式場は由緒ある場所
黄緑の木々が繁る、厳かな静けさの中
黒光り ....
新聞という情報ツールに
改めて、心底感心させられる

新聞配達をしていた十代の頃
それは重くて辛い紙束
それはただの新聞紙

日曜日の午後、夫の髪を染める
風呂場へ行く夫を見送り
足 ....
白くて水をたっぷり含んだような手

節の見えない長めの指

綺麗な淡色のマニキュア

カウンターに置かれたそれは
何か美しい生き物のように魅惑的で

コツコツ ....
最近 目方が増えた気がする

八月の検診以来
体重計には乗っていない

でも 増えているのは確か
このデニムを履くとわかる

おそらく 新米のせい
二杯食べてしまう 新米のせい
 ....
最初から知ってた

きっと私のどこかが感づいてた

あなたが私のことを好きでないこと

好きになろうとしてくれたのかもしれないけれど

あなたは一人で夢を見てた

私の笑顔が素 ....
薔薇色の日々を与えてくれて
貴方には心からの感謝を

どうしようにも
憧れすぎて
私は貴方になりたかった

貴方が知りたくて
ボードレールを読んだ
それがきっかけで詩を書き始めた
 ....
まるで夏のよう

この休日は気温も湿度も高い

今日の装いは真夏に着ていたワンピース

エプロン付けて台所に向かう

今夜は唐揚げ

衣をつけた鶏肉を油に入れていく

シュ ....
今年に入って
私は私を疑うようになった
特に仕事においては常に疑っている

会計では、患者様二人ごとに金庫の中を総計算
取引先に出す伝票は、四度、五度、確かめる
それでも、まだ足りない気が ....
今朝 
植物たちに水遣り中 
衝撃が走る

私のサボテンが
土の上に倒れていた

唖然としていたら

「サボテンがコテン」

チラと見た夫が言う

西宮から一緒に越してき ....
夜のベランダ
洗濯物を干していたら
一匹のコオロギが鳴き出した

リリリ リリリ
耳澄まし聞き惚れる

まるで私を誘うよう
少し移動するたびに鳴く

─暗闇で見間違えね
─私は若 ....
花野誉(92)
タイトル カテゴリ Point 日付
そこかしこ自由詩12*25/12/16 15:24
良いお年を自由詩13*25/12/11 20:11
まだやれる自由詩15*25/12/10 13:48
シミ自由詩9*25/12/8 22:38
越冬サナギ自由詩14*25/12/7 13:54
赤信号のあいだ自由詩13*25/12/3 19:54
羊羹のまま自由詩15*25/11/30 8:46
すこしの悲しみ自由詩12*25/11/26 7:20
光の王国自由詩9*25/11/23 11:03
冬の麻薬自由詩8*25/11/22 20:01
つま先の冬自由詩14*25/11/20 19:10
グランドフィナーレのあと自由詩7*25/11/19 13:31
ひととき自由詩5*25/11/17 22:09
夢の足跡自由詩18*25/11/15 20:34
気づかない記念日自由詩12*25/11/13 20:12
絆される夜自由詩9*25/11/10 19:59
みかん地獄自由詩15*25/11/9 11:40
しくじり日記自由詩16*25/11/5 21:00
西日の水晶自由詩925/11/4 16:06
北野坂の白昼夢自由詩6*25/11/3 11:48
チマチョゴリの咲く庭自由詩11*25/10/28 22:48
足元の新聞自由詩12*25/10/27 22:01
あわいの手自由詩12*25/10/24 15:30
心太自由詩8*25/10/23 20:25
最初から知ってた自由詩10*25/10/20 13:50
永遠の美しい男(ひと)自由詩11*25/10/19 9:44
夏の出戻り自由詩12*25/10/13 19:36
日々、私を疑う自由詩20*25/10/11 14:17
サボテンがコテン自由詩17*25/10/5 10:37
コオロギの誘い自由詩10*25/10/2 9:44

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