掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
とってだけではなくて、貴方にとってもそう。だけど、そうね、理由が要るとするならば、わたくしはこう答えましょう。疲れたからだと」
「疲れた。ですか?」
女は前に置かれたティーカップを手に取り、どこにあるかわからない口に運んで器用に飲んでいるように見せた。冷めてしまっては苦くなりますわよ?――諭されて私もあわてて透き通る紅茶の注がれたティーカップを持ち上げた、カップとソーサーの縁には同じ模様が描かれていた。なかに書かれているバラは王家の紋章だったはずだ。口元まで持ってくると、強い香りが鼻孔をくすぐった。普通の紅茶の香りとは少し違う。これは、バラ、か。口の中に流し込むと品のいい苦味が広がる
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