掌編小説『しゃしんの女』 〜中〜/朝原 凪人
 
「あの人?」

「えぇ、あの人。その髪もその口もその耳も貴方はあの人にそっくりだわ。だけど、やっぱり、眼が違う。貴方はまだ捨てていないのですものね。貴方の眼には、光があります。喜びや悲しみといった光が」

「悲しみが、光ですか?」

「えぇ、光です。人を苦しめる残酷な光。貴方はそれをまだ宿している」

 その言葉を聞いた瞬間、私は女の顔のその眼だけをやっと認識することができた。そこには白い楕円の中に墨を流したような黒、ただ黒い眼があった。女の言葉を借りるなら、光が、無かった。
 ひっゅ。息を呑む音を自分でも聞き取ることができた。恐怖。私は恐怖していた。女の眼に。生きている人間のも
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