掌編小説『しゃしんの女』 〜上〜/朝原 凪人
がる。食道を通っていく温もりが、胃に落ちるころには、私は鼻から抜けるバラの香りに酔っていた。
「ええ。疲れたのです。聞き分けの無い子供よりも、と申しましても、わたくしには子どもがおりませんから変な話ですが、とにかく子どもよりも手が掛かるものでしたから。主人であるわたくしのことなどお構いなしに、はしゃぎまわったり、急に塞ぎ込んだり。ときにはわたくしに噛み付くことさえありましたわ。ええもう、赤く腫れ上がって痛むのですよ。何も喉を通らないくらいに、何も手につかないくらいに痛むのです。風に吹かれただけでヒリリと痛むとは、上手く歌ったものですね。うふふ」
うふふ、女は確かに笑った。笑った、はず
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